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レッスン室拝見 第29回 秋山徹也先生 Part4
4.継続表彰50回中村香織さんにきく・本番までのレッスン過程
続いて、中村香織さんにきく。本職は内科医。継続表彰も50回を超え、2006年にはグランミューズ部門でファイナリストに。他コンクールでもアマチュア部門での入賞を重ねている。
初レッスン〜本番までの過程
─入門のきっかけは?
(前述の)金子一朗さんの持ち歩いている楽譜をみて、自分も楽曲分析ができるようになりたい!と思い立つも、一人ではどうにも歯がたたず、それで秋山先生の教室を探し当てたのが、3年前のことです。その金子さんが、私のホームページのレッスン日記をみて、逆に「なんだ?この先生、面白そうじゃん!」と言い始め、結局、彼も秋山先生の門下になられたわけですが・・。また、入門当時10歳だった高尾奏之介くんが、ふつうに楽曲の分析をしている様子をきいて、さらにショックを受けました。(笑)
─秋山先生のレッスンには、どのように臨んでいらっしゃいますか?
初レッスンの前には、少しでもアナリーゼの予習をしていくようにしています。古典派ソナタなど和声分析しやすいものは、全小節の予習をしてから初レッスンにいきます。バッハの本格的なフーガになると、和声分析だけでは不十分なので、今度は主題や対旋律やその断片たちを何色かの色鉛筆で塗り分けるといった「構造」に関わる分析が予習の主体になります。近現代の作品、たとえばドビュッシー後期などは、予習しようにも私にはまだ調性の確定さえおぼつかず歯がたたないので、要所要所の転調などで色を変えるべきだろうと思われるところだけざっくりイメージして、他はなにも出来ずにいきなりレッスンに持って行ってしまうこともあります。
しかしどんなに予習して、秋山先生のレッスンにもっていったところで、実際自分の出した音が果たしてイメージしているように鳴っているかと言われると、初回レッスンはたいてい箸にも棒にもかからないひどい状態です・・・。
─曲を仕上げるまでに、どのくらいみていただいていますか?
私の場合は、同じ曲をだいたい20回以上はレッスンしていただいていますね。最初の5回ぐらいまではとにかく、どこにどういう線を引かなければいけないのか、どこにどういう色を塗る予定なのか、つまり絵画でいうところの素描(デッサン)を描きながら確認する作業がレッスンの主体になります。曲が仕上がって本番が近づいてくるとデッサンもほとんど確定し、そうなると今度は個々のパーツの入念なバランス調整がレッスンの主体になってくるように思います。
同じ作曲家の作品をいくつか続けてやると、だんだん作曲者の語法に慣れて応用が効いてくるので、楽曲分析そのものはスピードが速くなります。でも最後のバランス調整は、やはり自分一人の耳ではまだ相当に限界があるようで、先生の耳を借りてフィードバックにつぐフィードバックの繰り返し作業。こうして本番(主にコンクールなど)を迎える、というのが、だいたいのレッスンの過程です。
─秋山先生のレッスンで、もっとも効果絶大だったのは?
バッハですね、それも対位法の究極の形態であるフーガのレッスンです。とにかく、徹底して各パーツの構成を追求したあと、それに基づいて微に入り細にわたる猛烈なバランス調整を要求されます。「主題と対旋律のバランスを5対4、ないしは6対5ぐらいで。」とか平気でおっしゃいます。「3対2では調整がかえって困難だから、せめて5対4か、6対5ぐらいがいいでしょう」とか、そういう厳密な世界です。ともすると、そこまで厳密な音量のバランスを演奏中に自分で聞き分ける耳さえ持てていない気がします。秋山先生はこの手のバランス調整に関しては猛烈な地獄耳!です。多分5対4かと6対5の違いでも聞き分けられる先生だと思います。私は野放しで演奏すると、いつもソプラノばかりワンワンと大きく弾いてしまう癖があるので、バッハのレッスンはそのソプラノ優位の矯正も含めて、まさにやってもやっても底なし沼!(笑)でも、バッハが課題曲になるコンクールでここ数年まあまあの成績が出せていることを振り返ると、ソプラノしか意識できていなかったバッハ音痴な自分も、ここ数年でずいぶん矯正されてきたかなぁと、嬉しく思います。
─秋山先生のレッスンの通いやすさは、どこにありますか?
基本的に、曲を解釈するうえで答えが一通りではないもの、つまり自由度がある部分については、先生はいっさい考えを押し付けてくることはありません。先生が答えを押し付けて来ないかわりに、こちらが自分なりの答えを持っていなければいけないわけですが・・・。自由度が無い部分、つまり、どこからどう解釈しても「それは無理があるんじゃないの?」ということについては直されるという感じなので、テンポや歌い回しを直される事はほとんど皆無であると思います。私は演奏におけるテンポや歌い回しは生理的な個人趣味の幅が相当あると思っているのでこれを直される先生だと精神的にすごく辛いのですが、解釈の自由度の範疇である場合はそういうものに矯正の声がかかることはまずないので、すごく精神的に楽ですね。
相対音感の補強
─秋山先生には、ソルフェージュのレッスンも受けていらっしゃるそうですね。
私、実は絶対音感も相対音感も「無い」のです。訓練をうけていないので。じつは、これが、本番で「暗譜がわからなくなった」ときに非常に危険だと気付いたんです。ほんの5〜6年前のことですが、演奏本番中、ハッ!と次が分からなくなったとき、次の音が頭のなかに鳴っていても、それが鍵盤のどこの音かわからない。当然、そこで手が止まってしまいます。あるいは、えいっままよ!と一瞬の判断で分からないまま、あてずっぽうで鍵盤を押すと、これがぜんぜん見当はずれなとんちんかんな変な音をガーン!と押してしまい、演奏が台無しになるどころか、客席から爆笑されて半泣きになった経験さえもあります。
秋山先生も、私が、音がわかっていないままドビュッシーなんか弾いていることに対して、「よくこんな恐ろしい状態で弾いてるもんだ・・・綱渡りだ。」と半ば呆れておられました(笑)。絶対音感は当然おありの秋山先生には、とくと説明して、絶対音感も相対音感も欠如した人間がとんちんかんな音を出して落ちるメカニズムというものを、知っていただきました。音感を身につけるのは時間もかかることなので、徐々に訓練していかないと仕方がないね、ということで、ソルフェージュのレッスンもこうして続けているのです。
《INDEX》
1.現在の総合音楽教室に至るまで
2.グランプリ金子一朗さんにきく(1)レッスンの目的
3.グランプリ金子一朗さんにきく(2)レッスンの効果
4.継続表彰50回中村香織さんにきく・本番までのレッスン過程
5.ソルフェージュ主体のグループレッスン