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臓器移植:現状と課題/下 「生体」依存度高い日本、法規制が急務

 ◇ドナーに精神的支援を

 世界でも生体移植への依存度の高さが際立つ日本。しかし、生体移植はドナー(臓器提供者)の健康な体を損ない、時に再手術や死を伴う危険性もある。このため、専門医が医療機関を対象にドナー保護の実態調査に乗り出したほか、日本移植学会から何らかの法規制を求める声が出ている。【関東晋慈、大場あい】

 07年秋、月刊誌「法律時報」9月号が「生体移植をめぐる法的諸問題」を特集した。その前年に愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院を舞台にした臓器売買事件と病気腎移植問題が発覚したのを機に、生体移植に注目が集まっていた。

 編集部は当時、同誌で初めて生体移植問題の特集を組んだ理由について、「臓器移植法が97年10月に施行されて10年。法学者の間でも生体移植の法規制のあり方への問題が強まっていたため」と説明する。

 日本で行われる臓器移植に占める生体移植の割合は高い。例えば、06年の腎移植1136件のうち生体からは83%の939件を占める。肝移植では508件のうち生体は実に99%の503件になる。

 しかし、臓器移植法自体には「臓器を死体から摘出すること」を「移植医療の適正な実施」と定め、生体移植に関する記述は一切ない。臓器売買事件を受け、厚生労働省は昨年7月、「臓器移植法の運用に関する指針」を改正し、生体移植の項目を新たに追加。臓器売買を禁止するため、本人確認の方法を細かく定めたが、生体移植そのものの規制には触れていない。

 特集号に寄稿した岡上雅美・筑波大准教授(刑法)は「臓器移植法に生体移植の規定がないため、生体移植ではドナーの選定や実施が移植当事者の判断に任されている」と日本の現状を問題視する。

 レシピエント(移植を受ける患者)の苦悩も深い。約20年前にドナーの父親から生体腎移植を受けた東北地方の女性(49)は「健康なのに手術を受けてもらうのは何かあったらと不安でならなかった。手術後に対面し、お互いが元気だと知ったときは本当にうれしかった」と振り返る。

 医師らで作る日本肝移植研究会の調査によると、ドナーの3・5%に再手術が必要となるような大量出血などが発生している。03年には京都大病院で肝臓の一部を娘に提供した母親が死亡した。

 こうした実態を踏まえ、研究会は05年、移植施設に対し、7項目の実施を提言した。▽レシピエント死亡など、経過が思わしくなかった場合のドナーへの精神的な支援▽移植施設から離れた地域に転居した場合、診療を受けたりドナー同士が交流を続けられる病院間の「ドナー外来ネットワーク」の構築▽ドナー全員に「健康手帳」を発行し、その情報を定期的に登録する制度の拡充--などが盛り込まれている。

 さらに今年5月には国際移植学会が生体ドナーの保護を各国に求めるイスタンブール宣言を採択した。

 国際移植学会に出席した小林英司・自治医科大教授は、国内外の情勢を踏まえ、有志による研究班で、生体肝移植を実施する全国61医療機関を対象にドナー保護の現状について、月内にも実態調査に乗り出すことを決めた。今後、各機関で研究会の提言がどの程度実行されているのかを把握し、改善策を今年度中にまとめる。

 小林教授は「イスタンブールでの会議では、ドナーもレシピエント同様に『患者』であることを確認した。法律による規制がなくても、ドナー保護のために登録制度を充実させるなど、できることは多い」と話す。

 一方、日本移植学会は倫理指針を定め、生体移植について「本来望ましくない。ドナーは6親等以内の血族と3親等以内の姻族に限定する」としている。

 だが指針は法的な強制力を伴わない。学会理事長の寺岡慧・東京女子医科大教授は「生体移植に何らかの法規制が必要と考えている。行政、患者団体と連携してドナーの安全性を高めたい」と話す。

 ■移植患者らがCD作製

 死体腎移植を受けた患者らが生きる素晴らしさを伝えようと、「空のあなたへ」と題した歌のCDを作り、歌詞とともに配布している。

 作詞したのは、99年に腎移植を受けた福島県南相馬市の主婦、佐藤恵子さん(49)。タイトルは主治医の九里孝雄さん、曲は妻恵子さんが付けた。詞では「暗く長いトンネルを抜けて 今この身に奇跡が起こる」と始まり、「本当にありがとう」を繰り返す。

 佐藤さんは13歳で慢性腎炎と診断され、37歳で人工透析を始めた。99年、日本臓器移植ネットワークに登録し、その4カ月後に血液型などの条件が一致する提供者が現れた。CDは昨春に完成し、福島県から全国の移植実施施設に贈られた。佐藤さんや仲間は「命の尊さと感謝の気持ちを伝えたい。多くの人に生きる喜びもかみしめてもらおう」と、改めて無料配布することにした。希望者は佐藤さん(0244・44・3964)。

毎日新聞 2008年8月15日 東京朝刊

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