会場には当事者、患者家族(夫婦)、医師、報道関係者が真剣に耳を傾けていた
当事者からの切実な訴えと医師から女性特有のがん=卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん=のメカニズムの説明と、がん治療の歴史と標準的治療の状況および取り組みが詳しく紹介された。
山本孝史・参議院議員(当時)がまさに命がけで成立させた「がん対策基本法」では、「がん対策推進基本計画」策定に「患者及びその家族又は遺族を代表する者」が参画できる道筋ができたことは大変意義深い。
現在の日本は、欧米に追いつくための患者と患者家族および患者支援団体が医療に参画できる土壌が、ようやく整いつつある。これからの医療および医療行政は、患者側の参画なくしては成り立たなくなっている。「患者のための医療」について考えたり、自分の疾患について知りたいと思ったら、その疾患の患者支援団体に当たってみるとよい。
女性特有のがんの中で、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がんについて日本での医療の進歩と将来の展望などを各専門医師が講演した。
卵巣がんは自覚症状があまりないために早期発見が難しく、発見されたときには進行しているがんで、抗がん剤治療(化学療法)が有効である。抗がん剤治療は30年以上にわたって徐々に進歩してきた歴史があり、一度に数百人〜数千人の患者が協力して行われる臨床試験によって試行錯誤が繰り返されている。現在では、複数の薬剤を組み合わせ、副作用が少ない治療方法が確立されつつある。
これまでの臨床試験では、マスメディアの報道が研究を妨げるケースがしばしばあったとの事だ。新薬が承認される過程では、必ずしも良い結果ばかりではなく、患者も承知で試験に臨む。ようやく承認された薬剤を使って副作用による事故が起きた場合、マスメディアが過剰に反応し、その後、その新薬が使えなくなってしまう場合がある。明日の命をつなぐ新薬を心待ちにしている患者にとって、一つの報道によってその希望を絶たれることになる。
子宮体がんは発見されると手術で摘出し、その後の抗がん剤治療が有効とされている。腹部の違和感や不正出血が、進行がん発見のきっかけになるので、そのような場合は婦人科を受診するように医師は勧めている。
子宮頸がんは検診によって発見が可能であり、初期に発見されると完治する。早期発見が遅れると、子宮摘出に至る場合もある。近年では20歳代の発症が増えているが、その世代の認知度は低い。欧米では、子宮頸がんの検診の受診率は80〜90%だが、日本では20%前後と異常に低い。
子宮頸がんは、ある種のHPV(ヒト・パピローマ・ウィルス)の感染によって発症する。HPVは一度でも性交渉があれば、誰でも感染し得る、ありふれたウィルスである。欧米では性交渉を始める前の12歳くらいの女児に予防ワクチンの接種が行われるが、日本ではまだ承認されていない。子宮頸がん検診の普及と予防ワクチンの保険適用が待たれる。
2.患者の期待阻む「ドラッグ・ラグ」
引き続き行なわなれたパネルディスカッションでは、「ガイドライン」や「ドラッグ・ラグ」について話し合われた。
日本では疾患ごとのガイドラインが医療水準の向上に寄与するとされている。多くは欧米のガイドラインを参考に作られるが、体格も体質も異なる日本人には日本人用のものが必要になる。
日本では皆保険によってどこでも標準医療が受けられることになっている。患者にとって分かりやすいガイドラインの情報提供あってもいいのではないか、という意見が出た。
日本の新薬承認のシステムが他国とは異なるため、日本で開発された新薬が他国で何年も前に使用されていても、まだ日本では使えない、あるいは適用範囲が他国より制限されたりする「ドラッグ・ラグ」という現象が起きている。
患者団体の「卵巣がん体験者の会 スマイリー」は、抗がん剤「ドキシル(リポーマルドキソルビシン)」を卵巣がん治療薬として保険適用を求めているが、この薬もドラッグ・ラグの一つである。現在、80ヵ国で承認され、安全性や有効性が認められているが、日本では承認されていないため、個人輸入で1回の点滴で60万円を自己負担しなくてはならない。
報道に携わる側から、「ドラッグ・ラグに注目しているが、映像を媒体としていることから、ドラッグ・ラグの現状を伝えるためには、医師や患者の協力が欠かせない」、と苦労が語られた。
特別セッションでは、「ティール&ホワイトリボン キャンペーン」と「東京都女性のがん対策委員会発足」が紹介された。子宮頸がんの予防を訴えている「オレンジティ」は8月10日に「ティール&ホワイトリボン キャンペーン」を始めた、と報告。検診率の向上、予防ワクチンの承認、子どもたちの正しい性教育に取り組む、という。
東京都は、女性のがん死亡率はワースト5で、女性特有の乳がん、子宮がん、卵巣がんの死亡率も状況は悪い。このような結果が出ていても、東京都の予防の取り組みは立ち遅れている。がん対策基本法を受けて発足した「東京都がん対策推進協議会」に患者委員(NPO法人ブーゲンビリアの理事長)として「東京都がん対策推進計画」に関わったが、患者からの提案は盛り込まれなかった、と報告された。「東京都女性のがん対策委員会」を発足し、ねばり強く行政に働きかける活動を続けていく。
今回のセミナーは、患者支援団体として会員とメディア向けのセミナーであったが、子宮頸がんの発症が増加している若い世代や理解者としての男性も知っておかなくてはならない内容だった。
「患者および患者支援者」は、医療従事者や製薬会社と連携して、現場を知らない医療行政の矛盾を是正し、真に「患者のための医療」を実現するために活躍すべき時に来ている。