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【63年目の追憶】(下)まだ見ぬ肉親の墓 (2/2ページ)
■涙、涙、涙
元憲兵の開(ひらき)勇さん(82)は21年1月、平壌日本人会の奉仕葬儀班に入り、市内にある龍山墓地に約300人を埋葬した。
「赤ん坊から老人まで…。母親は死んだ子供を何日も抱き続ける。涙、涙、涙だった」
開さんたちは収容所を回って大八車に遺体を乗せた。2〜3時間かけて墓地まで運ぶが、凍土を掘る道具もなく、雪や木の葉をかぶせるだけ。棺おけも作れず、着物もなく、裸のままの遺体もあった。
1つ1つの墓に白木の墓標を立てた。区画を決め、だれをどこに埋葬したかを克明に記録した。慰霊碑は石材店をやっていた避難民に建ててもらった。
開さんは埋葬地の見取り図と埋葬された位置が書かれた2421人の名簿を今も大切に保存する。「私がいなくなれば、ただのごみになってしまうのか」
開さんによると、龍山墓地には昭和30年代と60年代に2組の遺族が墓参した。その後も訪朝して墓参を希望した人がいたが、北朝鮮当局に断られたという。清津会には、高額のツアーで訪朝した遺族が墓地に行けずに涙をのんだ報告が寄せられている。高齢の遺族は1日も早く、自由に墓参や遺骨収集が実現することを望んでいる。
各地で墓参・遺骨収集事業を行う厚生労働省は「国交がない以上、手立てはない」(社会・援護局)と、問題を棚上げにしたままだ。(鎌田剛)