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死に至る病

2008年8月14日

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「仕組み」の経済学―18

 「死に至る病」が、日本列島に蔓延(まんえん)している。この病は別名を絶望と言う。その病根には、劣化する現在日本の経済・社会がある。

 この世は危険に満ちており、人は一人では生きられないので、血縁による大家族制や地縁による共同体を形成し、濃密な人間関係を築くことで、脅威を防御してきた。

 明治維新後の政府は共同体を崩壊させた。戦後の高度成長は大家族制を解体し、核家族を主流にした。バブル後は核家族すら解体しつつある。

 橋本政権以降は、市場原理主義が格差社会を拡大させる一方、自己責任の下に、企業、国家は国民の生存・自由・幸福の追求を保証する安全網を取り外す仕組みづくりを進めてきた。

 この結果、格差の進行によって、貧困層は孤立化を深めている。かろうじて保たれている核家族の中でも、ひとたび齟齬(そご)をきたせば、残酷な親子・兄妹殺人が起こる。

 「誰でもよかった」という通り魔事件の容疑者の発言は、孤立化した核家族や個人が、無機質の社会と直接向き合うしかなくなった絶望の声に聞こえる。

 濃密な人間関係の記憶が残る老人たちは、振り込め詐欺のような悪質業者の格好の餌食となる。貧困に取り残される老人たちには、孤独死に加え、老老介護の果ての心中、殺人が増える。

 欧米の「罪の文化」に対し、我が国は「恥の文化」といわれ、廉恥・善意が行動様式であったが、人間性の希薄な社会では恥の文化は意味を失う。

 今必要なのは、官僚による対症療法的な制度設計ではなく、坂本龍馬のように、この国を「いま一度センタク」しようとする志である。(四知)

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