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論 点 「代理出産を認めるべきか」 2008年版
代理出産とは究極の人間愛のなせる業である
[代理出産についての基礎知識] >>>

ねつ・やひろ
根津八紘 (諏訪マタニティークリニック院長)
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まずは子宮のない女性の救済手段として
 代理出産とは、夫婦が「何らかの理由で子供が生めない場合」第三者に出産を託すことをいう。「何らかの理由で子供が生めない場合」の理由としては、いろいろな場合が考えられるけれども、現時点では子宮がないが故に妊娠できないケースに限って、まずは世論の合意を得るべきではないかと考える。
 子宮がない場合としては、生まれながらにして子宮のないロキタンスキー症候群や、何らかの理由で子宮を摘出せざるを得なかったケースがある。ロキタンスキー症候群はそれなりの時期になっても生理が見られず、最終的には産婦人科診察を受けて発見されることが多い。また、子宮摘出例としては、子供ができないうちに子宮癌や、稀ではあるが子宮腺筋症や子宮筋腫等のため、好むと好まざるとにかかわらず手術を受けたケースが含まれる。
 いずれの場合も、卵巣機能が温存されているなら、自分の卵子と配偶者の精子を使って体外受精させ、その受精卵を協力者の子宮に戻し、妊娠・出産させることができるのである。私が今までに施行してきた五組のケースも、また向井亜紀さんが米国で受けた代理出産のケースも、子宮摘出術を受けてのことであった。
 私の関わった五例のうち四例は姉妹間のケースで、一例が実母(生まれる子にとっては祖母)が代理母となったケースである。いずれも当事者間で合意を得ているところに当方が関与する関係上、責任逃れをするつもりはないが、生ずるトラブルは当事者間の責任の下処理されることとなる。しかし、代理母側の家族には、約一年間の拘束を与えることとなり、なにがしかの不満が人間関係のトラブルへと発展する可能性は大である。
 その点、母親が代理母となる場合は高齢による危険性は高まるものの、人間関係のトラブルは最小限に抑えられるだろう。私の責任下で行っている現時点では、実母による代理出産が総合的にみて最もトラブルを起こしにくいケースと考えている。


誰も幸福にしない親子関係否定判決
 配偶子(精子や卵子)・胚(受精卵)の提供を受けなければ、また、子宮を借りなければ妊娠できない、いわゆる扶助生殖医療と呼ばれているケースは、AID(非配偶者間人工授精)を除いてすべて、日本産科婦人科学会が会告により認めていない。すなわち、日本国内では事実上、AIDを除いて扶助生殖医療はできない状態となっているのである。
 養子縁組が簡単に成り立たなくなった現在、不妊治療の進歩の中で、持てる人と持たざる人が助け合う相互扶助精神の下で成り立つ扶助生殖医療に、救いの道を選ぶのは必然的なことではないかと思っている。
 いずれにしても、子宮のない人がいて、その人のために代償なくボランティアで産んでくれる人がいるならば、他人が干渉できる範囲は自ずと決まってくる。
 最近、いろいろな分野で倫理という言葉が使われている。しかし、じっさいのところ倫理にかなっていることが行われているのか。日本産科婦人科学会の会告に反し、代理出産等を水面下でやっている医師達は、表向きはやっていないと公言している。にもかかわらず、倫理的に問題なしとして日本産科婦人科学会の中では大手を振って罷り通っている。これこそ倫理的に問題があることではなかろうか。
 今回、最高裁は、アメリカで代理出産をした向井亜紀さんの親子関係を結局認めようとはしなかった。法律というものは、応々にして時代について行けない部分を有しており、新しい判例で不備を補いながら、運用されてきた。このように臨機応変に対応しつつ国民の幸福追求権を守るために法の運用をするのが、最高裁判事のすることではなかろうか。向井さんの場合は外国で行われたのであるから、いくらシンディーという人が産んでくれたからといっても、遺伝子診断により親子鑑定をすればよかったのである。あの判決によって子供の幸せは葬られ、誰一人喜んでいる人はいない。このように、国民を不幸せにするような人を、今後、法を運用する人として我々は認めておいて良いのかとさえ思う。
 向井亜紀さんが会見の中で、素晴らしいことを言っていた。それは、「私にも父性と同じ関わり方をさせていただけませんか」と。子供が生まれた場合の届け出は、父親の場合は単なる認知でしかあり得ない。すなわち、このようにグローバル化した世界の中で、代理出産やAID、非配偶者間体外受精という方法が一般化されつつあるとき、新しい家族法として、母親も父親と同じように子供を自分の子として認知することにより親子関係が成り立つように変えるべきではなかろうか。そうすれば養子縁組の場合も、親が子として認知することにより親子関係が成り立つことになる。


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personal data

ねつ・やひろ
根津八紘

1942年長野県生まれ。信州大学医学部卒業後、沖縄県立中部病院でハワイ大学卒後研修コース履修。上村病院を経て、信州大学の産婦人科教室助手。76年諏訪マタニティークリニックを開設。減胎手術、非配偶者間体外受精、代理出産など、日本ではタブーとされてきた不妊治療をあえて実施し、医療界に問題提起した。代理出産は01年以来、5例を手がけている。著書に『子守うたを奪わないで』などがある。



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