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【社説】

拉致『再調査』 被害者が帰らなければ

2008年8月14日

 北朝鮮は、拉致被害者の「再調査」を迅速に行い、今秋までに結果を出すことになった。ようやく実現するが、被害者の帰国に結び付くのでなければ意味がない。この問題は結果がすべてだ。

 拉致事件が発生して三十年前後が経過し、被害者家族等による集会がいくつか開かれた。

 いまさら「再調査」というのもしらじらしいが、中国・瀋陽での日朝実務者協議で合意された。

 まずは「生存者を発見し、帰国させるための全面的調査」と位置付けた。北朝鮮は調査委員会を発足させ、日本政府が認定した被害者以外も対象に、「可能な限り今秋に終了」することになった。

 日本側の措置としては、経済制裁解除のうち「人的往来」「航空チャーター便乗り入れ」を調査着手と並行して解禁する。

 拉致被害者五人とその家族が三回に分かれて帰国してから四年がたつ。久しぶりの具体的動きだ。

 ただ再調査は二〇〇四年にも、金正日総書記の指示で行われたが“ゼロ回答”に終わっている。

 問題は、日本側が繰り返し求めてきた拉致被害者の原状回復−帰国が実現するかどうかにある。被害者の存在や安否は、特殊機関が掌握しているはずだ。北朝鮮には誠実な実行を求めたい。

 北朝鮮がようやく協議に応じた経緯を見ると、米朝関係と連動していることがよく分かる。

 「再調査」を約束したのは六月の協議である。米国は「核計画の申告」を検証する見返りとして、北朝鮮にテロ支援国家の指定解除を約束し、条件として拉致事件の進展を強く求めたからだ。

 今回の協議は、指定解除が予定された十一日に合わせるように、日程が組まれた。解除が先送りされたことから、再調査の着手を認めざるを得なかったのだろう。

 テロ国家指定は、北朝鮮にとって米国の敵視政策を転換させ、周辺国の経済協力を獲得するうえで、最大の障害になっている。指定解除は当面の悲願だ。

 従って、北朝鮮は米朝関係の改善、テロ国家指定解除をにらみながら拉致の再調査を進めるはずだ。さいわい、ブッシュ政権は検証で安易な妥協をしないという認識を新たにしている。

 日本政府が拉致解決に全力を挙げるのは当然だ。同時に、日米関係の重要性、核の検証の厳格化について、あらためて米政府と意思疎通を密にするときだ。それが拉致問題解決のテコになる。

 

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