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拉致再調査へ―形だけはもう許されない

 北朝鮮が拉致した日本人の再調査について、日朝両政府が何とか合意に達した。

 北朝鮮が再調査のための委員会を立ち上げ、今秋までに調査を終えることを目指す。見返りに日本政府は凍結してきた人的往来と航空チャーター便の再開を認める、といった内容だ。

 再調査にあたっては、北朝鮮はその途中経過を随時日本に報告し、日本側が関係者に面談したり、関係場所を訪問したりすることで、調査結果を直接確認できるように協力するという。

 日本政府は「一定の前進」と評価している。閉ざされていた再調査の扉が開くという点では、そうかもしれない。だが、先行きはとうてい楽観できない。

 過去の調査でも、北朝鮮の説明は矛盾の多いずさんなものだった。今度こそ、北朝鮮は誠意をもって真剣に取り組むというのだろうか。

 日本政府は、再調査について「生存者を発見して帰国につながるような調査」と位置づけている。権限のある北朝鮮の機関が作業にあたり、日本側も随時、状況を確認して意見交換できる態勢づくりを要求した。

 そもそも拉致という犯罪を行ったのは北朝鮮という国家なのに、同じ国家に事実解明の調査を委ねざるを得ないもどかしさ。それを考えれば、果たして信頼の置ける調査が可能なのか、根源的な疑問はぬぐえない。

 それでも、ここは可能なあらゆる手だてを尽くすことだ。北朝鮮が再調査をするというなら、その作業の内実をしっかりと把握することだ。

 独自制裁の部分解除も、6者協議と同じように「行動対行動」の原則で、調査の具体的な動きに応じて制裁解除のカードを切っていくべきだ。

 それにしても、日本政府が認定した最初の拉致事件が起きてから31年になる。待ちわびる肉親の姿は、いたずらな時間の浪費が許されないことを示している。

 金正日総書記は4年前、白紙の状態から再調査を約束した。その結果、北朝鮮側は横田めぐみさんの「遺骨」を出してきたが、日本側の調査で偽物と鑑定された。

 それから日朝は袋小路に入り込み、北朝鮮は「拉致は解決済み」と繰り返すばかりだった。それが2カ月前、再調査やよど号犯の引き渡しを受け入れた。米国によるテロ支援国家の指定解除を促すため、対日姿勢を和らげたのだろう。

 だが、実際の指定解除は、北朝鮮が核計画の申告をめぐる検証を受け入れないことから、先送りされている。

 北朝鮮は約束をきちんと実行することだ。その行動は実の伴うものでなければならない。再調査を形だけのものに終わらせてはならない。

マイナス成長―民間の実力が試される

 戦後最長の回復軌道にあった景気が後退期へ入ったことがはっきりした。4〜6月の実質国内総生産(GDP)が、年率換算で2.4%減と4四半期ぶりのマイナス成長になった。

 ずっと景気を支えてきた輸出が13四半期ぶりで減少に転じたほか、もう一本の柱だった設備投資もマイナス、個人消費も7四半期ぶりに減少した。主力打者やエースがそろってスランプに陥った野球チームのようだ。

 もとより景気に浮き沈みはつきものだ。過熱すればどこかでブレーキがかかるし、低迷しても過剰在庫などが整理されればいずれは浮上する。循環するのが景気というものだ。

 しかし今回は、単純に循環任せにはできない。構造的な問題が不振の背景にあり、心して取り組まないと長期化する恐れがある。

 まず、最大の輸出先である米国の景気が、サブプライム問題をきっかけに長い後退局面に入った可能性が高い。とすると、日本の主力商品である自動車や電気製品も打撃を受ける。輸出が減れば、国内の設備投資も減速するという悪循環に陥る。

 もうひとつの問題は資源の高騰だ。国際通貨基金(IMF)などによると、07年に日本から海外へ流出した所得は、世界最大の1965億ドル(約23兆円)に達した。原油などの輸入価格が高騰したのに、工業製品の輸出価格が上がらなかったためだ。

 逆に、サウジアラビアなど中東13カ国への所得の流入は1571億ドルとなった。日本など工業国のもうけが資源国へ吸い取られた勘定になる。

 米国は不振でも、資源国にはお金が余っている。そこへ日本製品を売り込んで取り戻すよう、企業は販路拡大の工夫や人材養成などに一段と力を入れなければならない。

 輸出以外では内需、とりわけ個人消費に期待したいところだ。ところが、長く賃金が低迷しているなかで、原油高・穀物高の打撃を受けて、財布のヒモを固くし始めている。

 一方で企業は、長期の好況で利益を膨らませてきた。法人企業統計では、全企業の経常利益は底だった98年の21兆円から、06年は54兆円へ拡大した。賃金を抑え非正規雇用を増やして人件費を削りつつ、株主配当や内部留保を手厚くしてきた結果である。

 これでは消費がしぼむ。企業が利益をためてきたのは、不況への備えでもある。その備えを使い、雇用条件を改善して人材を育て、新たな成長の芽を見つけて投資する。逆風のときこそ企業など民間の実力が試される。

 次の総選挙を見据え、与党は大型補正予算を組む方針で一致した。だが、過去の景気対策はどれも一時しのぎにしかならず、国債という重いツケを残したことを忘れてはならない。

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