◎北陸の最低賃金 二けたの引き上げ努力を
中央最低賃金審議会の引き上げ答申を受けて、都道府県ごとの地域別最低賃金を決める
議論が石川、富山の審議会でも本格化している。労使の主張の隔たりは大きいが、中央審議会が示した「目安」を尊重し、できる限りそれ以上の引き上げをめざす努力が望まれる。
全国では最低賃金が生活保護水準より低いところが少なくない。懸命に働いても生活保
護費に及ばないという状況は解消されてしかるべきで、そのための改正最低賃金法が七月に施行された。
中央審議会では、格差是正をめざす労働側が法改正も背景に、現在全国平均で六百八十
七円(時給)の地域別最低賃金を五十円程度引き上げるよう要求した。これに対して経営者側は、原材料価格の高騰や景気の後退などを理由に大幅な引き上げに反対し、労使のミゾは埋まらなかった。
このため公益委員見解として、平均の引き上げ額を十五円程度とする目安が答申された
。生活保護費との逆転解消や賃金の底上げに配慮し、昨年に続いて二けたの引き上げを求めたものだ。目安額は、所得水準などが高い東京などAランクの自治体が十五円、富山などBランクは十一円、石川などCランクは十円、さらにDランクは七円となっている。
石川、富山の現行最低賃金は各六百六十二円、六百六十六円で、どちらも生活保護水準
を上回っている。しかし、金額自体は現実のパート、アルバイトの時給相場に照らしても低過ぎると言わざるを得ない。景気悪化で中小企業の経営環境は厳しさを増しているが、生活困難な低賃金では消費は伸びず、政府がめざす成長力の底上げもおぼつかない。
政労使代表による政府の「成長力底上げ戦略推進会議」は、最低賃金の平均を今後五年
間で小規模企業の高卒初任給の最低水準に引き上げることで合意している。百人未満の企業の最低水準は〇七年度で時給七百五十五円であり、円卓会議の引き上げ目標は妥当なものといえる。労使が生産性向上に一層努力するなどして、その実現を図ることは地域の人材確保のためにも必要であろう。
◎拉致再調査の合意 北朝鮮任せに消えぬ不安
対日関係を有利に進めようとする北朝鮮のしたたかな外交と、対する日本の深い不信感
が底流にあって日朝実務者協議は難航したが、それでも北朝鮮が今年六月に約束し、協議の焦点だった拉致被害者に関する再調査の取り組みで双方が合意した。
結論からいえば、今度の再調査にしても基本的には北朝鮮任せになるのを否定できない
。実効性のある再調査を期待してよいのかどうか、依然として不安が消えない。
さすがに日本政府は手放しに喜んでいないとしている。
北朝鮮は権限を持った調査委員会を設置し、可能な限り今秋に調査結果をまとめ、日本
は調査開始と引き換えに経済制裁の一部を解除するというのが大筋である。調査が北朝鮮任せになるのをできるだけ防ぎたいとして粘ったため、再調査に関して▽北朝鮮は進ちょく状況を日本側に随時報告して協議する▽北朝鮮は、日本側が関係者の面談や関係資料の共有、関係場所への訪問を通じ、調査結果を直接確認できるよう協力する―などということも合意された。
二〇〇二年九月、当時の小泉純一郎首相が平壌へ乗り込み、金正日総書記と直接交渉し
たとき、金総書記は拉致を認め、特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走った結果だと釈明した。が、独裁政治の下でそのようなことが起き得るのだろうか。政権中枢の指示があった国家犯罪とみるのがまともだろう。
再調査を共同で行うよう申し入れたらどうかとの考えも日本側にはあったそうだが、結
果について共同責任が生じるからまずいという理由で消えてしまったといわれる。拉致被害者の救出を本気で目指すなら、結果はどうであれ、再調査を共同で行うよう提案するのが正しかったのではないか。腰が引けて見えるのである。
再調査で安否不明の生存者が「見つかって」ほしいものだが、真実を目指すと、北朝鮮
の政権中枢の闇に突き当たるため、先行きはまことに不透明だが、行動対行動の原則を曲げることなく、段階的に解決していき、日朝関係の正常化につなぐ一歩にしたい。