政府は、原油高や景気悪化に対応するための緊急経済対策の骨格をまとめた。農業や運輸業など燃料負担の大きい業種の効率化支援や省エネルギーの技術開発と普及などが柱だが、内容は新味に乏しい。即効性のあるものも見られず、どこまで景気浮揚につながるかは不透明と言わざるを得ない。
緊急対策は「安心実現の総合対策」と名付けられた。農業や水産業で使う燃料費を削減するための支援や流通過程の効率化を進めるほか、農水産物の値上げ幅を小さくして消費者の負担を抑えるとしている。
また、太陽光発電を普及させるための補助拡充や省エネ住宅の普及、中小企業への金融支援の拡大も打ち出した。さらに、生活不安を和らげるための非正規雇用対策、従来の経済対策の枠を超えた医療対策や学校耐震化などの施策も盛り込まれた。
政府は八月の月例経済報告で景気の後退局面入りを認めた。景気後退は米国経済の減速による輸出の落ち込みが主因だ。しかし、今回の骨格には輸出依存型に代わる国内の個人消費や企業の設備投資を底上げする経済対策がほとんど見られない。規制緩和など確固たる将来の成長戦略も踏み込み不足といえよう。これでは内需拡大の方向は見えてこないのではないか。
与謝野馨経済財政担当相は「物価高で国民が受ける急激な変化を和らげる必要がある」と強調。「お金がないからやめたというわけにはいかない」と述べ、補正予算も視野に入れて検討する考えを示した。今後、具体的な項目や財源について与党や各省庁と議論し、今月末をめどに対策の全体像を詰める。
ただ、政府側が財政規律にも配慮した経済対策の実行を目指しているのに対し、与党からは総選挙をにらんで減税や大規模な景気対策など歳出圧力が一段と強まるのは必至だ。
自民党の麻生太郎幹事長は、財政再建より景気対策優先の姿勢を見せる。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を二〇一一年度に黒字化する政府目標の先送りに言及したほか、株式配当の一部を非課税にするなどの減税案を唱える。公明党は所得税減税を主張している。骨格には「財政健全化路線を堅持し、旧来型の経済対策とは一線を画す」との文言も明記されたが、与党との調整は難航しそうだ。
限られた財源で有効な政策が打ち出せるか、福田政権は難しいかじ取りを迫られよう。従来のばらまき型の対策に終われば、財政悪化を招くだけであることを忘れてはならない。
旧ソ連圏の親欧米グルジアで激しい戦闘が起きた。国境を接するロシアが軍事介入し、欧米が批判を強めている。双方の対立が深まれば、新しい冷戦構造となりかねない。
きっかけは、グルジアからの分離独立を主張する親ロシアの南オセチア自治州の州都ツヒンバリ周辺にグルジア軍が戦車などで進攻したことによる。北京五輪の開幕に合わせたような軍事行動だっただけに、国際社会に衝撃を与えた。
南オセチア自治州は、ロシア・北オセチア共和国に隣接し、ともにオセット人が多数を占めていることから、ロシアへの帰属意識が強い。グルジアと南オセチアは一九九〇年にも軍事衝突を起こし、九二年の和平合意以来、南オセチアはロシアの後ろ盾で事実上の独立状態にあった。グルジア軍の進攻に、ロシアは即座に軍事介入した。
グルジアとロシアとの間で緊張が高まったのは、「バラ革命」を経て二〇〇四年に就任したグルジアのサーカシビリ大統領が北大西洋条約機構(NATO)への早期加盟を掲げて親欧米路線を強めたからだ。ロシアは、東方に拡大して国境に迫ってくるNATOについて「安全保障上の直接の脅威だ」といら立ち、グルジアの主要輸出品であるワインやかんきつ類などの輸入を禁止して経済的打撃を与えるなど対立は深まっていた。
ロシアの影響力拡大を恐れる米国は、グルジアを支援してきた。グルジアでの軍事衝突は米ロの覇権争いが背景にあるといえよう。双方は自制し、かつての冷戦時代のように相互不信を深めてはならない。武力で独立問題は解決できず、粘り強い対話以外にないと肝に銘じるべきだ。国際社会も武力行使が行われないよう、影響力を発揮することが大切だ。
(2008年8月13日掲載)