地球に降り注ぐ宇宙線を使って、鉄筋コンクリートの中の鉄筋を透視することに東京大学などのグループが成功した。手抜き工事などの鉄筋不足を、建物を壊さず見抜けるという。
東京大地震研究所の田中宏幸・特任助教は高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)などと共同で宇宙線「ミュー粒子」の量と、飛んできた方向を観測する装置をつくった。長さ5センチの棒状のプラスチックでミュー粒子があたると光をだす。この光を電流に変え、記録する。
実験ではこの装置を、直径5センチの鉄筋8本が入った太さ約20センチのコンクリートの前後に置いた。ミュー粒子は鉄筋コンクリートを通り抜けるとき、密度の高い鉄に衝突すると進路が曲がる。そこで、まっすぐに通り抜ける粒子を約17時間観測した。コンクリートだけの部分に比べ、鉄筋のある部分は個数が減り、そのデータから鉄筋の間隔や太さが推測できた。
X線は厚いコンクリートを通り抜けられないし、被曝(ひばく)の恐れもある。だが、ミュー粒子は厚さ1キロの岩盤を通り抜けるほど透過力が強い。設計図が改ざんされた耐震偽装事件のようなケースのほか、設計図は正しいのに現場で鉄筋を減らすなどの手抜き工事の検査にも使えるという。(鍛治信太郎)
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ミュー粒子 物質を形づくる12種類の素粒子の一種。重さは電子の約200倍で、電子と同じ負か正の電荷を持つ。宇宙放射線が大気に衝突して生じる。地表に達する宇宙線の約7割はミュー粒子で、残りのほとんどは電子。地上では手のひらぐらいの面積あたり毎秒1個ほど降り注いでいる。