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【結いの心】優しい日本人 どこへ 眠らぬ街<4>2008年5月30日
祖母が聞かせてくれた「優しい日本人」は、どこへ行ってしまったのか−。夫をトヨタ系下請けの工場で亡くした日系ブラジル人3世のケリー・タムラ(31)は、事故の責任を認めない会社の姿勢に、悲しくつらい日々を送っている。 一昨年2月、まだ暗い午前5時。昼夜稼働する工場で、夫の派遣社員アレイショ・マキヤマ=当時(40)=は亡くなった。故障を直している最中、突然動きだした機械に上半身を挟まれたのだ。3人の子を抱え、ケリーは途方に暮れた。 その夜、現場は外国人だけだった。リーダー役に指名されたアレイショにノルマの重責がのしかかった。 「教育指導を無視して上半身を入れたと推認され、自己責任の原則が妥当する」 安全管理に問題があったというケリーの訴えに、会社側の答弁書は素っ気なかった。彼女を支援する全日本金属情報機器労働組合の大平敞也(しょうや)(63)は「機械のマニュアルも作業要領書も、日本語でしか書いてなかった」と憤る。 アレイショの残業は月に約100時間。健康保険に入れてもらえないのに、頼み込まれ、熱を押して土日出勤したことも。「『僕がやらないと仕事が回らないんだ』って頑張っていたのに」とケリーは涙する。 身を粉にして働き続けた揚げ句、ひと言の慰労もない。人間扱いされないことが、悲しく、つらい。 彼女が幼いころ、三重県からブラジルに渡った祖母に聞いた話がある。 戦時中、祖母は食料不足に苦しむ祖国の妹に、ブラジルから砂糖5キロを送った。妹からは後日、「砂糖をコップに1杯ずつ、近所の家に配った」と知らせが届いた。日本に来る前、そんな「助け合いの国」に夢を膨らませた。 “祖国”で味わう現実は、安く使い捨てにされるだけの日系人の立場。ただ彼女は、日本人の別の一面も知っている。 自閉症の次男(4つ)が通う施設の先生は、大切な用事がある時、開園前でも特別に次男を預かってくれた。施設の母親仲間にも「困ったことは、何でも言ってね」と声を掛け合う温かな支え合いがある。 「悩みがある者同士だから、私の感じる差別も分かってくれるのかもしれない」 同じ日本人が見せる2つの顔の、どちらが本当なのか。「助け合いの国」こそ本当の“祖国”…。やっぱり、そう信じていたい。 =文中敬称略
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