米政府は北朝鮮に対するテロ支援国家の指定解除を先送りした。核の「検証」が具体的に進まない以上当然のことだ。拉致問題についても、北朝鮮が約束した「再調査」はこれからだ。
ブッシュ政権の見通しは甘かった。北朝鮮による「核計画の申告」に対する検証作業は、合意から一カ月半たつのに、具体的な方法が決まらず、着手できない。
見返りとしてのテロ支援国家の指定解除は手続き上、十一日以降ならいつでも可能になったが、ブッシュ大統領は延期せざるを得なかった。
来年一月までが任期の大統領は、「北朝鮮の非核化」に向けて外交的功績をあげたいのだろうが、安易な対応はむしろ北朝鮮の核保有を既成事実化する。
歴史に汚名を残さないためにも厳格な検証に抜け穴をつくるようなことがあってはならない。
検証の遅れは、北朝鮮が六カ国協議の合意を守らないのが直接の原因だが、米政府の焦りもこの結果を招いたのではないか。
米国は、先月の六カ国協議で、すべての核関連施設への立ち入り、精密検査機器の持ち込み、土壌などの試料採取といった具体的な検証方法を提示したという。しかし、北朝鮮は拒否している。
事前折衝で、米国は核兵器や寧辺以外の核関連施設、高濃縮ウランなどを対象から外し、施設立ち入りも「訪問」にとどめた。
これが六カ国協議の合意に反映され、北朝鮮が厳格な検証を拒否するすきを与えた。
一方で、北朝鮮はテロ指定解除を米国の敵視政策の転換と位置付けて、外交的孤立、経済の閉塞(へいそく)からの脱却を急いでいるようだ。米大統領が代われば、仕切り直しに時間がかかるためだ。
米国は安易な妥協を排除して、抜け穴を残さないよう検証の具体化を迫ってほしい。
指定解除の先送りは、日本政府からの強い働き掛けもあった。二カ月前に北朝鮮が約束した拉致被害者の「再調査」で、具体的な進展がみられなかったからだ。
ようやく、日朝実務者協議が二日間にわたって中国・瀋陽で開かれ、再調査の具体案をめぐって論議された。「拉致問題の解決に向けた具体的行動」、要するに被害者の帰国に結び付く内容かを注視したい。
核計画の検証も拉致の再調査も口先だけでは、不信を増幅するだけだ。誠実に実行しなければ、北朝鮮への見返りもない。
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