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【社説】

人事院勧告 民間準拠に工夫加えよ

2008年8月13日

 今年の人事院勧告は国家公務員の給与引き上げを見送る一方、勤務時間の短縮を求めた。民間の低賃金や長時間労働からは違和感が残る。今後の待遇改善は公務員制度改革の中で検討すべきだ。

 福田康夫首相と衆参両院議長に勧告書を手渡した谷公士総裁の表情は硬かった。無理もない。国家公務員制度改革基本法が六月に成立し、五年以内に新制度への完全移行を決めた中での勧告だったからだ。

 勧告は(1)給与・ボーナスは民間との差が小さいため改定しない(2)医療機関の勤務医師を確保するため初任給調整手当を来年度から平均年間約百二十七万円引き上げる(3)中央官庁の人材確保のため本府省業務調整手当を新設(4)所定勤務時間を一日八時間から七時間四十五分に短縮する−など広範だ。

 給与の改定見送りは二年ぶりである。人事院は民間サラリーマン約四十四万人を対象に給与実態調査を実施した。民間の方が百三十六円高かったが、賃上げするほどの差ではなかったという。

 国税庁が昨年発表した民間給与実態統計調査では勤労者の平均給与は九年連続で減少し、年収三百万円以下が千七百万人以上と全体の四割近くを占めた。厚生労働省の賃金構造基本統計調査でも平均賃金は二年連続でマイナスだ。

 まして社会保険庁の年金記録不備や道路特定財源をめぐる無駄遣い、天下りを背景とする官製談合など不祥事続出では、国民は引き上げ勧告は認めないだろう。賃上げ見送りは当然の判断である。

 勤務時間短縮は議論の余地がある。中小企業などに先駆けての導入は週休二日制と同様、公務員厚遇の批判を招かないか。実施された場合、窓口サービスの低下や逆に残業増加などコスト増にならないかチェックする必要がある。

 今後の公務員の待遇改善には、もっと工夫があっていい。

 人事院と人勧制度が発足したのは一九四八年十二月である。六十年後の現在、少子化・低成長と環境は大きく変わった。民間準拠は妥当な手法だが、さまざまな統計調査を利用すれば世間の“空気”を一層反映した比較となろう。

 国家公務員制度改革基本法は採用から登用、人事管理、非現業職員への労働基本権付与、六十五歳定年など大胆な改革を打ち出している。公務員の待遇改善も改革の基本方針である「信頼に足る公務員制度」に沿ったものに作り替えていくことが大切である。

 

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