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社説:安心実現対策 財政再建を危うくするな

 原油や食糧の価格高騰や景気悪化に対応した経済対策の骨格が固まった。「安心実現のための総合対策」と名付けられており、福田康夫首相の唱える「安心実現」具体化の施策も盛り込まれている。景気対策としては、今年度当初予算や秋の臨時国会での編成が予想される補正予算での対応が主となるが、安心実現では09年度予算編成もにらんだものになっている。

 また、「財政・税制・各種制度など政策手段を総動員」と、国債増発や減税なども状況によっては容認の姿勢が読み取れる。月末に向けて政府・与党内で具体的施策の詰めを行うが、景気重視の名目で財政再建を一時、遅らせるのであれば、重大な政策転換である。

 当面の経済運営を巡っては、麻生太郎自民党幹事長が、景気対策優先で、基礎的財政収支黒字化の達成年次先送りも選択肢と主張している。保利耕輔政調会長も景気対策重視の姿勢だ。連立与党の公明党も定額減税を求めている。

 これまで、財政健全化の象徴となってきたのは国債発行額の減額だ。税制改正でも減収につながる施策は極力、抑えられてきた。産業界が経済活性化の切り札として求めてきた法人課税引き下げも、こうした脈絡の中で、実現していない。歯止めがきいていたのだ。

 総合対策で想定される施策の中で安全や安心に関するものの大半は、すでに取り組まれているか、取り組むことが決まっている。非正規雇用対策や医療対策、消費者対策、低炭素社会実現対策などだ。新たな財源手当ての必要な施策もあるが、それらも、09年度予算編成に向け進めている既存政策の全面的見直し徹底による、不要な施策の廃止などでの財源充当も可能だ。

 緊急対策としての原油価格急騰の負担の大きい業種への対策などは、費目の組み替えや予備費の活用、前年度の余剰金などを中心に考えていけばいい。世界的に新物価体系に移行していることへの施策は必要だ。

 これらの施策は、総合対策の骨格もいうように、真に必要な対策に集中すればいい。それにより、国債の増発などにつながる可能性は小さいだろう。財政状況の厳しさを考えれば、国債の累増を加速するような施策は取れないはずだ。

 それにもかかわらず、総合対策には財政再建をないがしろにしかねない危うさが漂っている。公明党の主張する定額減税や麻生幹事長の提唱する株式配当無税化など税制の節度にかかわる事柄の取り扱いが今後の焦点だからだ。これらは税制の抜本改正とは縁もゆかりもないことだ。総合対策の策定ということで、与党内の歳出圧力も一段と高まっている。

 国民の痛みや不安に早期に果断な施策を講ずることは政治として当然のことだ。同時に、財政再建を危うくしてはならない。

毎日新聞 2008年8月13日 東京朝刊

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