二〇〇八年版の厚生労働白書は、社会保障、中でも年金制度の重要性をあらためて強調する内容となっている。
白書は、国民生活は個々人の責任と努力に基づくのが基本だが、自助努力で対応できないリスクに連携して備える「共助」が大切だとセーフティーネットとしての社会保障の必要性を説く。その上で、年金や医療、介護保険などを「共助を体現した制度」と位置付けている。
年金の重要性を示すデータも数多く示す。内閣府の〇五年度の国民生活選好度調査で、国民が重要と考える施策のトップが「老後の十分な年金」だった。社会保障のどの分野を重視すべきか尋ねた〇六年の厚労省の調査(複数回答)でも「老後の所得保障(年金)」が72%で最多だったことなどだ。
経済面の分析もある。一九九六年度に全国平均で6・3%だった県民所得に占める年金受給額の比率が、〇五年度には10・1%に上昇したという。都市圏より地方の方が割合が高い。地方経済は年金に頼る傾向が強まっているということだろう。
今回、白書が特に力を入れて年金などの重要性を説く背景には、社会保障費抑制の動きをけん制する狙いがあろう。国と地方の厳しい財政状況を背景に、歳出抑制圧力は強い。
しかし、白書が大切だと訴える年金制度の実態は頼りない限りだ。年金記録不備問題に伴う不安や社会保険庁、厚労省への不信に加え、制度そのものに対する懸念が大きい。
白書は、給付水準を維持し負担を抑える年金改革を〇四年に行ったと自画自賛する。だが、改革の根幹といえる基礎年金の国庫負担割合の問題に決着がついていない。政府は、〇九年度までに国の負担割合を現行の三分の一から二分の一に引き上げると約束したものの、財源の都合がつかず予定通り実行できるかいまだに不透明だ。
財源確保策として消費税率引き上げがいわれるが、反発を招きかねないことから次期総選挙をにらんで国庫負担増の先送り論さえ出ている。〇九年度予算の概算要求基準でも扱いが決まらず、政府は結論を予算編成まで先送りした。
年金については、現行の保険料方式か税方式か、また、公的年金の一元化など、少子高齢化に対応するための改革論も出ている。これらも踏まえ、安心につながる制度の選択肢を示すことが、白書の役割だったはずだ。本気で国民の不安解消に挑まない厚労省の姿勢が、将来不安をあおっているともいえる。
内閣府が発表した「水に関する世論調査」で、節水を実践していると答えた人が初めて七割を超えた。地球環境問題への関心の高まりから、身近な資源である水を大切にする意識が広がっているといえよう。
調査は今年六月、全国の成人男女三千人を対象に行い、千八百三十九人から回答を得た。普段の生活で、どのような水の使い方をしているかの問いに、「まめに節水している」と「ある程度節水している」を合わせると72・4%に達した。二〇〇一年の前回調査に比べ7・5ポイント増え、同様の調査を始めた一九八六年以降で最高となった。
二〇〇八年版水資源白書によると、生活用水の使用量は近年、横ばいから減少傾向にある。白書は理由の一つに各家庭への節水型機器の普及を挙げているが、世論調査で表れた節水の実践も寄与しているに違いない。
ただ、地域別の使用量にはばらつきがある。〇五年の一人一日平均使用量は、北九州が最も少ない二百六十七リットルなのに対し、最も多い四国は三百三十八リットルで、北九州の一・二六倍もある。岡山、広島、山口三県の山陽も三百十三リットルで全国平均(三百七リットル)を上回っている。
北九州では一九七八年の大渇水を契機に、公共施設や事務所ビルなどで雨水や下水処理水などの再生水の利用を推進してきた。折しも中四国は今夏、雨が少なく、早明浦ダム(高知県)は貯水率低下で取水制限を行っている。岡山県内でも高梁川水系のダムの貯水率が下がり、渇水が心配される。
繰り返される水不足に対して一段の備えが求められる。北九州にならい雨水・再生水利用の促進を図ることも必要だ。節水意識をさらに高めて、節水型社会への歩みを着実なものにしていきたい。
(2008年8月12日掲載)