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2008年8月13日

◎赤羽ホール1週間 都心に呼び込んだ5千人

 金沢都心の文化創造拠点として北國新聞赤羽(あかばね)ホールが開館して一週間が過 ぎ、開催中のこけら落とし公演「もと夫婦」は、きょうの最終日を含めると、十公演で約五千人を動員することになる。演劇や音楽に親しむ新たな器ができたことで、都心に多様な人の流れを呼び込み、周辺に活気をもたらしたと言えるだろう。都心活性化の求心力を生み出すためにも、県民、市民に大いに赤羽ホールを利用してもらいたい。

 北陸新幹線の金沢開業を控え、都心のオフィス街に企業が回帰する動きが見えてきた。 いくら郊外が発展しても、都心に魅力がなければ、都市が真に活性化したことにならない。都心に人を引き寄せる要素として、さまざまな発想を持つ人や、新しい刺激と出会えるという期待感も欠かせない。

 この時期、金沢では夏の恒例イベントとして金沢城オペラ祭、金沢ゆめ街道が開催され た。こうした野外の大規模な祭典に、赤羽ホールのこけら落とし公演が加わって、金沢都心が重層的な「劇場空間」としての顔を発信することができたと言える。

 赤羽ホールを訪れた人たちは、舞台と客席の垣根が低く、役者と同化して泣き笑い、同 じ時間を共有する演劇本来のだいご味を味わった。今後、地元でさまざまな芸術活動に取り組む人たちの発表会や交流の場として、大ホールでは得られない一体感を醸成する上でも最適の場であろう。

 演じ手も観客の反応をじかに感じながら、腰を据えて役作りを磨けるという点で、連続 公演の試みは有益に違いない。俳優や音楽家の側にとっても、舞台に立ってみたいホールとしての評価を定着させたい。

 金沢市内では、駅周辺や武蔵、香林坊の空室解消を目指して、市が拡充した都心軸周辺 のオフィス助成制度の認知度が高まり、七月から県外企業が相次いで事業所を開設するなど、都心部への企業進出が続いている。企業の中には、金沢の歴史や文化に通じる社員の養成に乗り出す傾向も見えはじめた。金沢の芸術文化への関心度が高まる中で、赤羽ホールの担う役割はますます大きくなるだろう。

◎グルジア紛争 和平の責任は米ロにある

 グルジア・南オセチア自治州をめぐるグルジア、ロシアの武力衝突は、ロシアのメドベ ージェフ大統領が戦闘停止の意向を表明したとはいえ、いったん燃えさかった戦火は容易には消えないだろう。紛争の背景には、旧ソ連圏域で影響力を維持したいロシアと、グルジアを旧ソ連圏域の「自由の灯」とたたえ、後ろ盾となってきた米国の覇権争いがある。和平の責任は米ロにあることを認識してほしい。

 9・11事件以降、米国はテロを封じ込めるため、カスピ海と黒海に挟まれたカフカス 地方などで影響力を強めてきた。グルジアはその最たる国の一つで、米軍顧問団を受け入れ、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を急いでいる。国境を接するロシアにとっては裏庭を荒らされるような容認しがたい状況であり、対抗策としてグルジア領の南オセチア自治州を支援し、ロシア化を図ってきた。

 グルジア軍の自治州進攻が紛争の発端とはいえ、ロシアがグルジアの「停戦」通告に応 じず、圧倒的な軍事力で空爆を続けたのは、あまりにも過剰な対応に映る。同じくNATO加盟を目指すウクライナなど、旧ソ連地域でロシア離れが進むことへの焦りと、それらの国々に対する牽制の意味があったのだろうか。ロシアが停戦を表明したのは武力行使に一定の成果を得たと判断したと考えられる。

 北京五輪開幕と同時に表面化した紛争は、ロシアと近隣諸国の対立がもはや「旧ソ連圏 域の内戦」ではなく、米ロの覇権争いが絡み、複雑な東西対立を生じさせていることを世界に知らしめた。その対立の構図は、豊富な資源エネルギーを背景にしたプーチン政権以降の覇権主義的な傾向によって、より先鋭化し、潜在的な脅威を高めているようにも思える。

 自国の影響力を武力でみせつける強権的なやり方は、領土紛争や民族紛争では何の解決 にもならず、憎悪を増幅させるばかりだ。とりわけカフカス地方は複雑な民族紛争の火種を抱え、「火薬庫」の様相を呈している。今回の紛争が他の地域に飛び火しないよう、米ロの真剣な対話を求めたい。


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