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1. 細胞周期
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1. 細胞周期
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1-1. 細胞周期とは何か?
細胞は増殖する時に細胞周期と呼ばれる一定のプロセスを経る。細胞周期を特徴づけるのは細胞が分裂する時期で、これをM期(mitosis)と呼ぶ。ついで特徴的なのはS期(DNAsynthesis)であり、この時期では子孫に伝えるための遺伝情報を運ぶ DNA を複製により正確に倍化する。ヒトでは受精してすぐあとの発生初期にはS期とM期が4回ほど繰り返されるが、その後この2つのの間(Gap)を埋めるような特徴の見いだせない、G1期(gap1)、G2期(gap2)と呼ばれる時期が出現する。すなわち、細胞はG1→S→G2→M→G1という順序で規則正しく細胞周期を繰り返して増殖してゆく(図1)。ヒトの細胞が細胞周期を1周するのに30時間はかかる。その時間配分はおよそG1(6〜12時間)、S(6〜8時間)、G2(3〜4時間)、M(0.5 〜1時間)である。一般に癌細胞は細胞周期にかける時間が短く20時間くらいで1回転するものもある。
細胞周期の進行にとってひとつの重要な時期がG1期とS期の境目に存在する。その時期は哺乳動物培養細胞ではR点(restriction point)と呼ばれる。一旦、R点という関所を通過すると外界の状況がどのようなものであれ細胞周期は進行するように方向づけられて速やかにS期に進入し、続けてG2期、M期へと進んでいってG1期へ戻ってくる。もし環境が悪いという決裁が下された場合には細胞はスタートを通過できないため、S期に進まずにそのままG1期にとどまるか、あるいは細胞周期からはずれて静止期(resting [quiescent] state;G0期)と呼ばれる特別な状態に入り休止状態となる。細胞の置かれた環境によっては、分化、老化、アポトーシス、減数分裂などへ進むべきシグナルを受け取ることもあるが、それらの状態への分岐点も現在のところはこのG1期のR点前に存在すると考えられている。
癌細胞は細胞周期制御が異常となり、回りの細胞から来る分裂停止のシグナルを無視して増殖をつづけてゆく細胞で、多くの発癌遺伝子はこのR点を強引に通過させる働きを持つ。癌の重要な特徴は細胞分裂後に生じる2つの娘細胞へ正確に染色体を分配ができなくなっていることで、大切な遺伝子が欠落したより悪性度の高い癌細胞を生み出してしまう。ここでは細胞周期のどこが異常となっているのかについて解説しよう。
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1-2. 細胞周期エンジン
細胞周期研究の本格的な研究はハートウェル(L. Hartwell)らが出芽酵母をモデル生物として選び、細胞周期に異常を持つcdc(cell division cycle)と呼ばれる数多くの温度感受性変異株を樹立したことに始まる。ナース(P. Nurse)らは同様な手法を分裂酵母に適用し、やはり多くのcdc 変異株を樹立し解析してきた。なかでもcdc2 遺伝子は細胞周期エンジンという愛称を持つCdc2 キナーゼをコードする。このエンジンには回転を円滑に進めるためにサイクリン(cyclin)という蛋白質(分裂酵母では Cdc13)が結合して細胞周期の進行に合わせてタイミング良く機能する(図2A)。エンジンを動かすガソリンの役割を果たすのが蛋白質を構成するアミノ酸のうちセリン(S: Ser)あるいはトレオニン(T: Thr)のリン酸化である。
サイクリンの存在量は細胞周期の間に細胞内で周期的(cyclic)に増減するがCdc2 の量は一定で変動しない。サイクリンが結合して初めて発揮される Cdc2 キナーゼ活性は、サイクリンの存在量に連動して細胞周期的に変動する(図2B)。活性がピークとキナーゼとしての役割を果たすと、サイクリンは速やかに分解され不活性な Cdc2 のみが残る。こいして細胞周期エンジンは回転する。ヒトでは現在までにサイクリンA,-B,-C,-D, -E, -F, -G, -H, -I, -K, -T までの11種類のサイクリンが知られているが、ヒト全ゲノム塩基配列ーの決定によってさらに数種類の類似蛋白質の存在も指摘されている。さらにサイクリンAには2種類の(A1, A2)、サイクリンBには2種類の(B1, B2)、サイクリンDには3種類の(D1, D2, D3)の、Eには2種類の(E1, E2)、サイクリンGには2種類の(G1, G2)サブタイプが報告されている。これらすべてのサイクリンは分子の中央領域にサイクリンボックスを持ち、これに加えてサイクリン蛋白質の蛋白分解酵素による消化シグナルとなる PEST 配列(サイクリン A,B,F )や破壊ボックス(サイクリン E )が見い出される。
キナーゼについてもCdc2 以外にCDK2〜CDK9 (cyclin-dependent kinase)と順次名付けられた9種類の類似な構造・機能を持つ蛋白質キナーゼをコードする遺伝子が機能解析されている。このうち、CDC2, CDK2, CDK4, CDK6 の4つが細胞周期エンジンとして機能している、すなわちヒトでは少なくとも4台のサイクリンエンジンが回っている。
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1-3. ブレーキの役目を果たす CKI
細胞周期エンジンには CKI (CDK inhibitor)と呼ばれる阻害蛋白質が結合してブレーキの役目を果たしている。 CKI は CDK/サイクリン複合体に結合することで活性を阻害しており、キナーゼ活性を発揮すべき時機が到来するとタイミング良く分解される。哺乳類ではこれまでに8個の CKI をコードする遺伝子が単離されているが、これらは構造上次の2グループに分類される。
ひとつのグループを構成するのは p15, p16, p18, p19 と呼ばれる4つの CKI で、いずれもCDK4, CDK6 と強固に結合することでサイクリンが結合するのを競合的に阻害してキナーゼ活性が発揮できないようにし、細胞周期をG1期で停止させる(図3A)。これら CKI は分子の殆どがアンキリンリピート(ankyrin repeat)と呼ばれる蛋白質分子間の結合に作用すると考えられている反復アミノ酸配列から出来ている。アンキリンリピートだけで構成されている蛋白質は珍しい。悪性黒色腫・悪性グリオーマなどでは第9染色体短腕(9p21)領域の欠失が高頻度に検出されるが、この欠失部位をクローニングしたところ、そこに p16 が見つかり、その後の実験から p16 が癌抑制遺伝子としても機能することが明らかにされた。さらに脳腫瘍、膵癌、食道癌などでも p16 の高率な欠失・変異などの報告がなされたことから p16 は臨床的にも注目されている。p15 は p16のすぐ上流にある p16 と塩基配列が酷似した遺伝子として見い出され、脳腫瘍などで p15 の欠失が報告されている。
もうひとつのグループを構成するのはN末端側にCDK阻害ドメインを持つ p21, p27, p57と呼ばれる3つの CKI である。これらはいずれもCDK/サイクリン複合体に結合することでキナーゼ活性を阻害する(図3B)。後述のようにp21 はDNA損傷のシグナルを受けた癌抑制遺伝子p53による転写誘導によって発現され、多くのサイクリン・CDK複合体に対して阻害作用を持つ。p27は細胞増殖制御にとりわけ重要な役割を果たし、細胞周期のみでなく個体発生における細胞分化や細胞癌化の抑制、さらにはアポトーシスをも制御している。実際p27 を欠失したノックアウトマウスは精巣、卵巣、胸腺、網膜、下垂体など p27 の発現は見られる。一方、p57 は発現していない器官において構成細胞数の増加(過形成)が生じて個体が巨大化し、下垂体腫瘍を自然発生させる。
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1-4. E2FはG1/S 期での周期的発現を担う
転写制御因子 E2F は哺乳動物の DNA 複製(S期)開始に必要な遺伝子群の発現がG1/S 期でピークとなるように転写レベルで調節する。E2F は呼吸器や目などに炎症を引き起こす DNA 型ウイルスのアデノウイルスの持つE2遺伝子のプロモーターに結合する細胞由来の因子として見出された。標的遺伝子の5’上流には E2F モチーフと呼ばれる標的配列(TTTCGCGC または GCGCGAAA)が見い出されている。6種類のE2F様蛋白質(E2F-1~ -6)と2つのE2F類似な DP(DP-1, DP-2)が存在し、1分子の E2F と1分子の DPがヘテロ二量体を形成することで転写制御因子としての活性を持つ。この時期で作用する Cdk としてはサイクリンD/Cdk4、サイクリンD/Cdk6、サイクリンA/Cdk2,サイクリンE/Cdk2 の4種類があり、E2FはサイクリンA/Cdk2 と複合体を形成する。
RBは網膜芽細胞腫(Rb: retinoblastoma)の原因となる癌抑制遺伝子で、分子の中央には結合に使われるポケットA,Bと呼ばれる2つの領域があり、その周辺にはCDKのリン酸化標的アミノ酸配列が見つかる。非リン酸化型 pRB はG1初期で転写因子 E2F / DPヘテロ二量体と結合して E2F がS期開始関連遺伝子の転写を誘導するのを抑制している(図4A)。リン酸化されると立体構造が変わって遊離し、抑制が解かれて活性したE2F/DP-1複合体がS期開始に必要な遺伝子を一斉に転写誘導する(図4B)。DNA 傷害の信号が入って p21 が発現誘導され、Cdkキナーゼ活性が不活性化されると、pRB は非リン酸化状態を保ちE2F/DP-1に結合したままで抑制をとかない。そのために細胞周期は G1期で止まったままS期には進入できない。これが G1/S 期移行における主要な制御機構である。哺乳動物には p107(1068aa), p130 (1139aa)と呼ばれる pRB (928aa)と構造や機能が類似した相同蛋白質も知られている。
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2. チェックポイント
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2. チェックポイント
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2-1. チェックポイントの概念
細胞周期の進行を妨げる異常事態が起こったときにはそれを修復する仕組みが細胞に備わっているが、修復にはかなりの時間がかかる。細胞にはこのような異常を検出して修復機構に知らせ、修復されている間は細胞周期を停止させて修復のための時間かせぎをするチェックポイント(checkpoint)制御と呼ばれる仕組みが備わっている。チェックポイントの存在に最初に気づいたのは米国の L. Hartwell と T. Weinert である(1989年)。チェックポイント因子は修復の完了もモニターしていて、完了が確認されると停止シグナルを解除し、細胞周期は何事もなかったかのようにまたもとどおりに進行してゆく。チェックポイント因子は細胞周期が順調に進んでいるときには必要とされないので、それを破壊しただけでは細胞は死なない。
チェックポイントは例えてみればビール工場における瓶詰めベルトコンベアーの監視係である。いつもは監視室から瓶詰め作業をモニターしていて、1本でも瓶が倒れたら急いでスイッチを切ってベルトコンベアーを一時停止させる。すぐにインターホンを使って作業場の係の人に倒れた瓶の取りのぞきを命じ、もとどおりになったと判断したらベルトコンベアーのスイッチ再びオンにして作業を再開させる。
チェックポイントには何種類かある。たとえば、DNA 複製と染色体の分配開始を連携させる S/M チェックポイント、DNA傷害を認知して細胞周期を停止させるDNA傷害チェックポイント、あるいは均等な染色体分配を保障する紡錘体形成チェックポイントなどが詳しく調べられている。その多くにおいてSer/Thr 型の蛋白質リン酸化酵素により標的蛋白質を次々とリン酸してチェックポイント信号を伝達している。癌細胞ではこれらのうちいずれかが壊れており、細胞分裂の結果生まれる新しい娘細胞に染色体を均等に分配できない。そのため、細胞分裂のたびに重要な制御遺伝子が欠損した悪性度の高い癌細胞が生まれる。
2-2. DNA 傷害チェックポイント制御
ヒトの細胞ではDNA 傷害チェックポイント制御が働いており、G1・S期の移行およびG2・M期の移行を制御している(図5)。そこで中心的な役割を果たすのはATM キナーゼ(3056a.a.)である。 ATM (AT mutated)は毛細血管拡張性運動失調(AT : Ataxia telangiectasia)の原因遺伝子である。AT は常染色体劣性遺伝性疾患で臨床的には進行性の小脳性運動失調(ataxia)を起こすのみでなく、毛細血管拡張症(telangiectasia)、精神遅滞、免疫不全、早老症状、発癌率の増加など幅広い症状を呈するが、そのうち発癌率の増加とチェックポイント因子としての役割が多くの研究者の注目を浴びている。実際、AT 患者由来の細胞は放射線高感受性や染色体不安定性を示す。癌研究の世界では有名であった ATM キナーゼがチェックポイント制御に重要な役割を果たしていることが分かったことは、多くの癌研究者にとってそれまでは耳慣れなかったチェックポイントという概念を周知させたという意味でも意義は大きい。
ATM キナーゼのもうひとつの大事な役割は、癌抑制遺伝子産物で転写制御因子でもあるp53 (後述)の Ser15 をリン酸化して活性化することにある。活性化されたp53 は幾つかの転写標的遺伝子の転写を誘導するが、中でも 14-3-3σ と p21 はチェックポイント制御に重要である。 14-3-3σはリン酸化されたHsCdc25Cを捕捉して不活性化する。 p21 は CDK の阻害因子(CKI)の一種であるが、 p21 は cyclin D1/Cdc4 あるいは cyclin D1/Cdc6 を標的として結合し、その活性を阻害することで作用点である G1/S 遷移を阻止し細胞を G1期で停止させる。さらにS期の進行に重要な役割を果たす PCNAの阻害因子でもあり、発現が増加することでS期進行阻止の重大な原因となる。かくしてヒトの細胞では DNA 傷害はG2期のみでなくG1期停止も起こして異常細胞の出現を二重に阻止しているのである。
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3. 適合という概念について
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3. 適合という概念について
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癌を考える上で、チェックポイントと密接に関連する“適合(adaptation)”という概念も見逃せない。この概念はやはり L. Hartwell らが1997年に提出した概念で、チェックポイント制御がかかって細胞周期停止が指令されているにもかかわらず、しばらく時間がたつと傷害が残ったまま指令を無視して細胞周期を再開してしまう現象(overriding a checkpoint)である。これに比べ、細胞周期停止している間に傷害が修復され、正常な細胞周期が再開される場合は、これを“復帰(recovery)”と呼ぶ。“適合”が実際に起こっているがどうかには以下の3つの現象が観察されることが証拠となる。
- チェックポイント制御機構により、しばらくは細胞周期を停止すること、
- ある程度の時間がたつと細胞分裂を始めてしまうこと、
- 細胞分裂を始めた時点でも細胞周期の停止信号を保持していること。
DNA 傷害チェックポイントに由来するG2/M期停止において適合を起こせない2つの出芽酵母変異株細胞では DNA が二重鎖切断を起こしたときにチェックポイントが働いて8〜10時間はG2期で停止しているが、やがて適合を起こして細胞周期を再開する。そのひとつはM後期(anaphase)の完了に必要な様々な蛋白質をリン酸化することで制御している蛋白質キナーゼ(CDC5:polo-like kinase)の変異であった。Cdc5 はチェックポイント因子をリン酸化することでバイパスしてチェックポイント制御から逃れさせていると考えられる。もうひとつの変異株ではカゼインキナーゼ II の特異性を規定するサブユニットであるCKB2 が変異していた。
この最初に出芽酵母で見つかった適合という現象は、単細胞生物にとっては合理的な仕組みであると考えられる。すなわち、傷害が致死的なもので無いときにさえいつまでも細胞周期停止を命じるチェックポイントに従い、細胞周期を停止していたお陰で栄養分を他の生物に奪われてしまってそのまま全滅するよりは、何とか増殖を再開して少数でも生き延びた方が淘汰の世界で勝利するのである。しかし、これが多細胞生物では、適合して生き延びた細胞はもう元の姿ではなく、他の細胞の存在を無視してひたすら増殖してゆく癌細胞となる確率が高い。細胞そのものは淘汰に勝って生き延びはしたが、その所属する個体は死んでしまう。進化の過程において、単細胞生物の時代に獲得した適合という淘汰に有利だった制御機構は多細胞生物となった現在でも引き継がれてしまい、それが癌細胞という形で個体を苦しめているとも考えられる。
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4. p53, pRB経路
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4. p53, pRB経路
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4-1. p53-経路
多くのヒトの癌細胞では共通の遺伝子が壊れている。その代表的な遺伝子がp53である。
4-1-1. p53とは何か
癌抑制遺伝子のひとつである p53 はゲノムの保全状態を常に監視しているため、ゲノムの管理人(guardian of the genome)と呼ばれることもある。p53 は細胞内での半減期が20分という不安定な蛋白質で、正常状態の細胞内では p53 の存在量は低く、しかも不活性な状態にある。しかし、放射線や化学物質によってDNAが傷害を受けると大量に発現誘導され、誤ったDNA合成を防ぐため細胞周期をG1期で停止させて傷害が修復されるまでの時間をかせぐ役割を果たす。この意味でp53 はDNA傷害チェックポイントの制御因子である(後述)。一方、修復不能な傷害がある細胞に対してはアポトーシスを誘導して殺してしまう機能を合わせ持つこともp53の特徴である。このような2通りの手段でDNAの安定性の保持を担っているため、ひとたび p53 に欠損が生じると染色体DNAの不安定性が増大し癌化への速度を増加させると考えられている。実際、50%以上のヒト癌細胞でp53 の異常が見出される。多くの場合、父母由来の対立遺伝子の一方が欠失し、残った方に突然変異(9割以上はアミノ酸置換を起こす点変異)が起きて変異p53 として発現されている。p53 蛋白質(393a.a.) は分子量53kDの転写制御因子であり、RRRC(A/T)(A/T)GYYY という塩基配列に2量体(dimer)として特異的に結合して標的遺伝子の転写を増大させる。一方でp53 は除去修復を担っている諸因子とも複合体を形成し直接にDNA損傷修復に参加しているらしい。p53 のノックアウトマウスは正常に生存できるが、生後6カ月以内に高頻度で悪性リンパ腫を発症する。
4-1-2. p53の転写標的遺伝子群
転写を制御される標的遺伝子にはサイクリンG1、p21WAF, mdm2, bax, gadd45, 14-3-3σ, CDK4 , p53AIP1, p53DINP1, p53RDL1, p53R2などが重要である(図6)。
p21 はDNA損傷のシグナルを受けて活性化されたp53 によって転写誘導される。複合体あたり2分子の p21 は、幾つかのCDK複合体(cyclin D1-Cdk4, cycln E-Cdk2, cyclin A-Cdk2, cyclin A-Cdc2)に結合してリン酸化活性を阻害する。cyclin D1-Cdk4を阻害した場合には pRB (後述)のリン酸化が抑制されるため、E2F/DP の転写活性も阻害され、細胞はS期に進めなくなってG1期で細胞周期を停止する。一方、p21 はDNAポリメラーゼの複製活性を促進する作用を持つ PCNAとも結合して活性を阻害する。このこともG1期停止に一役かっている。
Mdm2 は細胞質で p53 と特異的に結合するユビキチンリガーゼ(E3)であり、蛋白質分解の開始の印となるユビキチンをp53に結合させる。その結果、p53 は蛋白質分解複合体であるプロテアソームに運ばれ分解される。あるいは核内で p53 と結合して p53 の転写制御因子としての機能を失わせる機能も併せ持ち、いずれにしても p53 の阻害因子として細胞を癌化する(後述)。
サイクリンGには2種類(G1,G2)あるが、p53の転写標的遺伝子となっているのはサイクリンG1のみである。蛋白質脱リン酸化酵素であるPP2Aと複合体を構成してその活性を制御している。
Bax はホモ二量体、あるいは Bcl2とヘテロ二量体を構成することによりアポトーシスを制御しており、Bax 量が増えて Bax-Bax ホモ二量体が優勢となるとアポトーシスが促進されると考えられている。
gadd45 はガンマ線、紫外線などによるDNA損傷により、あるいは低血清培養後の増殖停止時に発現が誘導される一連の遺伝子群のひとつで p53 の標的部位は第3イントロンにある。Gadd45 はPCNA に結合してG1期停止を起こすと考えられる。
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4-1-3. チェックポイント制御因子としてのp53
上述のようにp53 はG1期およびG2/M期チェックポイント停止に関わっている。14-3-3σ 遺伝子が p53 によって転写誘導され、発現された14-3-3σ蛋白質が Cdc25C ホスファターゼを細胞核から細胞質へ連れ去ることによってM期への進行を阻止し、細胞をG2期に停止させる(図5)。P53は特定のアミノ酸がリン酸化されることによりチェックポイント機能が活性化される。リン酸化する蛋白質キナーゼとして重要なのは上述のATM(ATR)とChk1(Chk2)である。ATM も DNA 傷害チェックポイント制御因子であり、その欠損によって患者の発癌率の増加が起こる。ATMノックアウトマウスでは生育はできるが、すべて発癌して死亡する。一方、ATR (ATM-related)と呼ばれる類似なキナーゼも見つかり、こちらは複製チェックポイントを制御する。
ATM はChk2と呼ばれる蛋白質キナーゼをリン酸化して活性化し、DNA 傷害チェックポイント信号を下流に伝える。他方、ATR はChk1と呼ばれる蛋白質キナーゼをリン酸化して活性化し、DNA複製チェックポイント信号を下流に伝える(図7)。Chk2(Chk1)はさらに下流の様々な標的蛋白質をリン酸化してDNA複製チェックポイント信号の伝達を仲介している(図8)。
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4-1-4. p53による中心体制御
中心体(centrosome)は二個の円筒状の中心小体(centriole)が立体的に直交して配置した細胞内器官で細胞分裂において中心的役割を果たす。中心小体は微小管と同様にチューブリンが重合して中空の管状になったもので、3連の管が9本より重なった特徴ある構造をしており、その周りを中心体周辺物質(pericentriolar material)と呼ばれる無定形な物質が取り囲んでいる(図9)。
体細胞の分裂(M)期は有糸分裂とも呼ばれ、S期で複製された染色体が娘細胞に分配され時期である。M期はさらに前期、前中期、中期、後期、終期と呼ばれる一連の連続的な過程に分けられる(図1)。S期が始まる直前に2倍に複製した中心体はM期が始まるまでには核膜に沿って移動して核膜の両端に位置する。核膜が壊れると、中心体の周りには微小管構造中心(MTOC)ができ始め、そこから多数の微小管が伸びてくる。微小管が染色体の中央にある動原体に付着すると個々の染色体は伸びてくる微小管に押されて細胞の中心部(赤道面)へ整列する。紡錘体形成チェックポイントによって染色体の整列が完了したというシグナルが入ると、個々の染色分体は動原体の部位で付着したままの状態で紡錘糸によって核の両極側へ引っ張られ、細胞分裂は終了する。
p53 ノックアウトマウス由来の線維芽細胞では培養してから数回の分裂を過ごしただけで異常な中心体数を示し、微小管が3〜4個の極を持つ異常細胞の割合が増えているという。p53 はM期における染色体の分配に主要な役割を果たす中心体の数を決定する制御因子のひとつであるらしい。中心体の制御に異常が起これば癌細胞特有の染色体数異常の原因となる。
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4-2. pRB-経路
ヒトの癌では p53 の下流でG1期からS期への移行を制御しているRB-経路の異常も数多く報告されている。ほとんど全てのヒトの癌でRB-経路を構成する4つの遺伝子(p16-cyclin D1-Cdk4- pRB)のうちのいずれかに変異が見つかるという。p16はcyclin D1-Cdk4 複合体の活性阻害である。一方、cyclin D1は多くの癌で増幅され過剰発現している。上述のようにpRB は網膜芽細胞腫の原因となる癌抑制遺伝子で、細胞周期のG1/S移行期において、 細胞周期エンジンに対するブレーキの役割を果たしている。G1期にとどまっている場合には非リン酸型で転写因子 E2F / DPヘテロ二量体と結合して E2F がS期開始関連遺伝子の転写を誘導するのを抑制している(図4)。何らかの増殖シグナルが届いて細胞周期エンジンのひとつであるcyclin D1-Cdk4 複合体のキナーゼ活性が上昇すると、その標的となってリン酸化される。すると立体構造が変わって、もはやE2F/DP-1 転写制御複合体に結合していられなくなり遊離してゆく。そうなると抑制が解かれるためE2F / DPの活性が上昇する。その結果、S期開始に必要な因子をコードする遺伝子が一斉に転写誘導を受け、大量発現された因子が働いてS期が開始する。
4-3. P53経路とRB経路を繋ぐARF
ヒトの第9染色体長腕の 9p21 は多くの癌患者の細胞で欠失変異が多いことから癌抑制遺伝子の存在が予測されていた。そんな時、そこに Cdk の阻害因子のひとつであるp16INK4a 遺伝子が癌抑制遺伝子として発見された。さらに詳しく調べてみるとp16INK4a 遺伝子そのものの中に読み枠(reading frame)をひとつずらしたもうひとつの蛋白質が発現していることが発見された。この遺伝子はずばりARF(alternative reading frame)と呼ばれた。
p16INK4a 遺伝子は3つのエクソンから構成され、125アミノ酸からなる分子量 16 kDa の蛋白質をコードする(図10)。ARF 遺伝子はp16INK4a 遺伝子のエクソン2,エクソン3を借用して、エクソン1のさらに上流にある別の DNA 領域をエクソン1の代わりに採用(エクソン1β)して選択的スプライシングによってARF mRNA を生成し翻訳している。このARF mRNA はp16INK4a とは違う読み枠で翻訳されるため、翻訳停止信号も早めにエクソン2で現れ、遺伝子産物としての蛋白質(Arf)はp16INK4a とは全く異なるアミノ酸配列を持つ。興味深いことにヒトとマウスのp16INK4a はアミノ酸配列が良く似ている(73%一致)のに、ヒトとマウスの Arf は別の蛋白質ではないかと見間違うほどにアミノ酸配列が異なる。その理由はもちろんのことながら別の読み枠を無理して使用しているためであり、そこから進化的にはARF mRNA の方が新しいのであろうとの予測がなりたつ。それでも塩基性アミノ酸(とくにアルギニン)に富むという性質は保持されており、細胞内局在に必要なアルギニンが連続するという特徴あるアミノ酸配列を分子内の違う場所に持っている。
p16INK4a はサイクリンDと競合する形で Cdk4 と結合することで、 Cdk4 のキナーゼ活性を失活させる。そのためリン酸化標的であるpRB をリン酸化することができず、pRB がいつまでも E2F 転写制御因子に阻害的に結合したままになる。その結果、 E2F の標的遺伝子であるS期開始制御遺伝子群が転写誘導うけることができずに細胞周期は G1/S 期に停止したままになって増殖抑制がおこるのである。ちなみにARF 遺伝子も E2F の標的遺伝子である。一方、Arf は Mdm2 および p53 と複合体を形成する。Arf はArf のN末端側と Mdm2 のC末端側を介して Mdm2 に結合する。以下に述べる機序によりArf の Mdm2 への結合により、p53 はプロテアソームによる分解から免れ安定化する。かくして、p16INK4a は Rb-pathway を、 Arf は p53-pathway というふうに 9p21 領域は2つの重要な増殖制御系に関わっているため、とくにエクソン2の中で起こる変異は細胞増殖制御に重篤な影響を与える。
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4-4. Arf はMdm2 をp53 から引き離して核小体へ運びこむ
Arf の細胞内分布を調べると核小体へ局在していた。ヒトArfの様々な部分が欠失したArfを発現できるプラスミドを作成し、それらを幾つかの哺乳動物細胞に導入して核小体局在を示す領域を狭めていったところ、エクソン2にコードされたわずか17アミノ酸(QLRRPRHSHPTRARRCP)のみで核小体局在が可能であることが分かった。予想どおりこの部分には核・核小体移行シグナルとなりうる2つの塩基性アミノ酸に富む配列(RRPR/RARR)が見つかる。実際、この17アミノ酸のみとGFP を融合させた蛋白質はヒト培養細胞において核質全体と核小体に移行した。
Arfノックアウトマウス由来の(ArfD )細胞に Mdm2 を外から導入して免疫染色によって局在を調べると核内には分布するものの核小体からは完全に除外されていた。ところが同時に Arf を発現するプラスミドを導入すると Mdm2 は核小体内に移動し、 Mdm2 の結合蛋白質である p53 は核内に残っていた。さらに詳しく調べてみると、Arf が 積極的に Mdm2 を p53 から引き離して核小体に引き込んでいることが分かってきた。Arf の役割はp53 からMdm2 を引き離して核小体へ運びこむことにより、細胞質において発揮されるMdm2 の ユビキチンリガーゼ E3 としての機能を邪魔して、 p53 をプロテアソームによる分解から守って安定化することだと思われる(図11)。そして、この機能の発揮のために、サイクリンGが重要な働きをすることも分かってきた。
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5. 多段階発癌説
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5. 多段階発癌説
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体内に一個の癌細胞が生じると、長い時間をかけて徐々に悪性化する。マウスやラットなどの実験動物を使った化学変異原投与による発癌においては、起始(initiation)、促進(promotion)、進行(progression)という3つの過程を経て徐々に癌化が進んでゆくことが知られている。細胞周期と癌の関係を考えるうえでも発癌機構と悪性化機構は区別して扱った方が分かりやすい。発癌においては上述のp53-経路あるいは RB-経路いずれかで大半の癌細胞が説明できる。一方、悪性化においてはチェックポイント異常が重要で、癌転移を抑えることが治療において重要である。
1988年、ボーゲルシュタイン(B.Vo¨gelstein)はヒト大腸癌発症に関する膨大なデータを元に、変異した癌遺伝子の順序と癌の悪性化の過程を結びつけた多段階発癌説を提唱した(図12)。この多段階発癌のシナリオは変異する遺伝子の種類や順番に多少の変更があるにせよ大腸癌以外のがんでも成り立つと考えられている。そのモデルによると、癌化は以下のように進行する。
- 正常な大腸の上皮細胞が変化して肥大上皮となる。その原因としては発癌性化学物質(食品添加物・農薬・防カビ剤など)や物理的刺激(紫外線・X線など)が考えられる。この細胞はゲノムの遺伝子に変異は起こしていないので、刺激がなくなれば正常に戻る。
- 刺激が継続すると、細胞は病理的に初期腺腫(class I)と呼ばれる状態に陥って癌化が始まる。この初期癌細胞の特徴は遺伝子発現抑制性のシトシン(C)のメチル基が除かれ、増殖促進系の遺伝子の発現が亢進する点にある。
- もう一段進んだ中期腺腫(class II)の状態ではK-ras発癌遺伝子に点変異が起き、K-ras 蛋白質の活性が亢進して細胞増殖が促進されて、細胞数が増えてくる。
- 後期腺腫(class III)にまで進むと前癌病変が病理的に観察されるようになる。しばしば癌抑制遺伝子(欠失すると癌になりやすくなる)であるDCCやp53の欠失が見出される。
- p53 が欠失すると細胞増殖の全く制御の効かない癌腫と呼ばれる状態となり、無制限の増殖を始めるようになる。この悪性化過程の間には MCC や APC などの癌抑制遺伝子の変異や欠失も観察されることがある。
- p53 を欠失した癌細胞は非常に悪性度が高く、欠失・増幅・転移が一層激しく起こるようになって、癌細胞は浸潤(invation)を伴った転移癌として異所的な癌の発生を起こし、やがて個体は死ぬ。
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6. 染色体不安定説
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6. 染色体不安定説
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6-1. 染色体の不安定性が癌の特徴である
図12で示したように癌細胞では細胞分裂するたびに重要な制御遺伝子を次々に失ってゆき、それにつれて一層悪性化してゆくように見える。一般に、ひとつの細胞から次々と遺伝子が失われて行くには何か変異を加速する仕組みが働かなくてはならない。なぜなら、普通の細胞では1細胞世代・1遺伝子あたりの変異率は10のマイナス7乗以下というデータがあるからで、ヒトの生涯の中で1つの細胞にそれほど多くの変異が自然に蓄積するのは計算上不可能なのである。ボーゲルシュタインのモデルでは遺伝子の変異による新たな機能(活性化)の獲得(gain of function)を起こしたのは K-ras のみであって、あとは癌抑制遺伝子群の欠失でみられるように正常細胞の持つ制御機能の喪失(loss of function)という現象が癌の悪性化に重要な役割を果たしている。では、どうして癌細胞では次々と遺伝子が欠失してゆくのであろうか?そこに癌の重要な特徴と、ひょっとしたら新たな治療法開発へのヒントが隠されているのではあるまいか?
この遺伝子欠失と同義である特徴は癌細胞では染色体が不安定なことである。このことは、古くから報告されており、患者の癌細胞では染色体の不安定性による染色体の数の異常(aneuploidy)や染色体の脱落・転座・増幅がしばしば観察されてきた。しかし、それをきちんと証明したのは意外にも1997年になってからのことである。一般に癌細胞は CIN(chromosomal instability)株、MIN(microsatellite instability)株の2種類に分類される。なかにはCINと MINという両方の形質を示す株もあるが、数が限られる。CIN株とは染色体数異常を起こしている癌細胞で、MIN株とは染色体数は正常な二倍体であるが DNA 修復異常に由来する マイクロサテライト(ヒトゲノム中に数多く見い出される数塩基の短い繰り返し配列)数の異常として検出されるタイプの染色体不安定性を起こしている 癌細胞である。ボーゲルシュタインらは FISH 法と呼ばれる染色体の特別な位置を染色して顕微鏡下で検出する方法を駆使して、大腸癌細胞株のうち4種類の CIN 株と4種類の MIN 株とについて継代培養の間に染色体数がどのように推移していくかを観察した。その結果、 CIN 株ではいずれも25回継代しただけで1世代・1染色体あたり1%以上の高い割合で染色体の欠失や増幅が起こっていたのに対し、 MIN 株では50回継代した後もさほどの染色体数異常は観察されなかったのである(図13)。この実験によって、古くから漠然と知られていた癌細胞の示す染色体不安定性という特徴が初めて明快に示されたと共に、それが癌細胞の持つ持続的な欠陥であること、および染色体不安定性は CINと MINという2つの形質によって現れてくることも初めて明らかとなった。
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6-2. 染色体の不安定性を生じさせる原因
では一般に細胞の染色体不安定性を生じさせる原因にはどのようなものがあるのだろう。多くの研究から現在では次の3つの可能性が考えられている。
1つにはDNA修復機構の欠損で、マイクロサテライト数が癌細胞では細胞ごとに異なるという現象によって塩基配列レベルで検出することができる(マイクロサテライト不安定性)。色素性乾皮症(XP)の原因遺伝子がヌクレオチド除去修復に関与していたり、ヒト家族性非腺性大腸癌(HNPCC)の原因遺伝子がミスマッチ修復に関与していたりと、家族性の癌の中にはDNA修復酵素の欠損が直接の原因となっているものが幾つか知られている。
2つにはテロメア(染色体の両端に存在する特別な繰り返し塩基配列)の不安定性を原因としたテロメア近傍の染色体の切断と融合にある。すなわち癌細胞では細胞分裂が異常に促進されているためテロメアが短くなりがちで、極端な場合はテロメアを完全に失なってしまう。テロメアを持たない染色体同士は融合しやすいため、2つのセントロメアを持つ染色体が生じる。その結果、染色体が細胞分裂のときに引きちぎられ重要な遺伝子が欠失する原因となる。
3つ目の原因はチェックポイント制御機構の異常で、これこそが多くの患者を苦しめている癌の悪性化の主要な原因ではないかと近年とみに注目されはじめたものである。たとえばDNA複製完了をモニターするチェックポイント因子が欠損した場合には、複製が完了せずに染色体が一部しか分離できない状態のままM期に進入するため、染色体がちぎれて分配され、特定の染色体部分が欠如した細胞が生じる(図14)。また紡錘体形成チェックポイント機構が壊れると、ある染色体の数が過剰あるいは不足した異数体(aneuploid)と呼ばれる染色体数が異常となった状態の細胞が現れる。
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7. 患者の癌細胞
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7. 患者の癌細胞
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モデルが如何に素晴らしくても現実に起こっていなければ何の意味も無いのが科学の厳しさである。しかし、ひとつでも実例が見つかると勢いがついてくる。ボーゲルシュタインらは癌患者由来の大腸癌細胞株のうち4つの MIN 株と6つの CIN 株に微小管破壊薬剤を加えてM期を停止させてみた。すると、 MIN 株では正常な線維芽細胞と同様にM期停止を起こしたが、 CIN 株ではチェックポイント異常が原因で起こるM期進入が見られた。これは CIN 株でチェックポイント遺伝子の変異が起きている可能性を示唆する結果である。そこで数あるチェックポイント遺伝子のうち、M 期の紡錘体チェックポイント因子として良く知られている hBUB1 遺伝子を詳しく調べることにした。 Bub1 は蛋白質をリン酸化するキナーゼである、 Bub3 と呼ばれる機能未知の蛋白質を標的としてリン酸化する。紡錘体チェックポイントを構成する蛋白質複合体は直接 動原体に作用して微小管付着を感知し、それがうまくいっていない場合にはM期の中期から後期への進行を停止させる。実際、 Bub1 はM期の前期には 動原体に存在するが、中期になって 微小管付着が完了すると 動原体から離れて行くことが確かめられている。
ヒト癌細胞由来の hBUB1 遺伝子をクローニングして塩基配列を決定したところ、癌細胞特有の塩基置換が起こっており、異常な Bub1 蛋白質が生成されていた。ただし、癌細胞のゲノムに存在する1組2つの hBUB1 遺伝子のうち、ひとつだけが変異体であった。すなわち、これらの変異はドミナントネガティブ効果(変異した蛋白質が正常蛋白質の機能を優性に阻害することで正常な表現型が出なくなること)を示す可能性がある。実際、変異した hBUB1 遺伝子を MIN 細胞に導入して過剰発現すると MIN 細胞までがM期チェックポイント異常を起こすようになったことは、この予想が正しいことを示す。この他、ヒトの MAD2 遺伝子の変異が肺癌の細胞株で見つかっている。
DNA 傷害チェックポイント制御に関わる hChk2(hCds1)おいても癌患者(リー・フラウメニ症候群:LFS)に変異が見つかった。LFSは遺伝性の癌体質を持つヒトの示す表現型で、LFS患者は乳ガン、脳腫瘍、白血病などの癌にかかりやすい。p53 がすでにLFSの75%を説明できる原因遺伝子として同定されていたが、p53 変異を持たない患者の一部において、活性中心を含む領域の一部が欠損したhChk2変異が見つかった。これらの結果はヒトの癌で本当にチェックポイント変異が起きており、その変異が染色体不安定性の、ひいては癌の悪性化の原因であることを示唆する貴重な実験結果である。癌研究において新たな展開のきっかけとなるのではないかとの期待は大きい。
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