差別が貧困を生み、貧困が差別を生む--。11日に首相官邸で開かれた政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の第1回会合で、アイヌ代表として委員に選ばれた北海道ウタリ協会の加藤忠理事長が、今も貧困と差別に苦しむアイヌの現実を訴えた。道内におけるアイヌの現状は、9月に予定される第2回会合で加藤理事長と高橋はるみ知事から、さらに詳細に報告される予定だ。【千々部一好、高山純二】
初会合は午後1時半から約1時間半、非公開で行われた。出席者によると、アイヌの生活相談員を18年間務めた加藤理事長が10分間以上にわたって、時折涙ぐみ、言葉を詰まらせながら実際に見てきた事例を披露。「加藤先生のお話が感動的で、これからの問題を提示するような内容だった」(佐々木利和・国立民族学博物館教授)などと各委員の共感を呼んだ。
会合後、加藤理事長は「アイヌの貧困を見てきた人間として、やるせない思いをしながら話した。小中学生でも差別に苦しむ現実が続いていることを知ってほしかった」と話した。アイヌからの要望に添いながら道の立場を主張していく考えを示している高橋知事も、「さまざまな格差が残っている。国主体で総合的な施策を行ってほしいと(懇談会内で)話した」と呼応した。
北海道大アイヌ・先住民研究センター長の常本照樹教授は「アイヌの声は多様なものがある」と指摘した上で、「(さまざまな)地域や世代の声をヒアリングして、十分審議に反映させるべきではないかと申し上げた」と述べた。
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【アイヌ政策有識者懇の委員】
安藤仁介 世界人権問題研究センター所長
加藤忠 北海道ウタリ協会理事長
佐々木利和 国立民族学博物館教授
◎佐藤幸治 京都大名誉教授
高橋はるみ 北海道知事
常本照樹 北海道大アイヌ・先住民研究センター長
遠山敦子 新国立劇場運営財団理事長
山内昌之 東京大教授
(◎は座長)
毎日新聞 2008年8月12日 地方版