医師増員、医療者はどう考える?
医学部の定員増に関して国が具体的に動き始める中、医療者らでつくるNPO「医療制度研究会」でも、医師増員の方法についての議論が出た。既存の大学での養成、メディカルスクール、臨床研修の在り方など、現場の困惑はまだまだ続きそうだ。8月9日に東京都内で行われた研究会のフリーディスカッションでの、医師増員に関する発言要旨を紹介する。
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医師養成数増、方策と環境整備は?■正規分布外れる医師は除くべき
森田茂穂・帝京大医学部麻酔科教授 米国の医療が日本の医療より優れているというのは全くの誤解。やり方によっては、日本の医療は世界のトップになれるだろう。われわれはもっと自信を持つべきだ。そのためにも、±3SD(標準偏差)以上となるような、正規分布から外れる一部の医師は除いていかなければならない。その努力をするためにも、医師の増員が必要。医師が充足している状態にしておいて、「切る」ということだ。
■医学部が一番大変
松原要一・鶴岡市立荘内病院院長 これだけ医療が崩壊しつつあり、一度崩壊してしまえば駄目になる。今は医師を増やすチャンスだ。医師を増やすには、お金と学校が要る。それには住民が意思表示をしなければならないから、わたしたちが情報提供することが大事。国民が「医者を増やさないと大変だ」と認識すれば、国は動く。
皆、医師増には賛成だと思う。でもどうやって増やすのか。この前(地元の)山形大、新潟大に行ってがくぜんとした。文部科学省は定員を増やしていいと言うが、予算が全然ない。教室を造り替えるだけで予算がなくなる。文部教官になるには6か月や1年かかるから、やめた後にすぐ補充できず、足りていない。先日、嘉山孝正先生(山形大医学部長)が「大学は医学部の定員を増やす覚悟はある」と(6月20日の全国医学部長病院長会議の記者会見で)発言し、いろんなインターネットブログが「何の覚悟だ」と言っていた。これは、わたしなりに考えると、「お金もない。教室も増やさないといけない。文部教官もいない。でもこれだけ医師が足りないのだからしょうがない。われわれは苦労して大変かもしれないけど、医学部定員を増やそう」という覚悟だと思うのだが、それが分からない人が多い。
閣議決定で医師(養成数)を増やすことになった。本当に充足するには50年や100年かかると思うが、見込みはできたわけだ。今、一番大変なのは大学医学だ。ここにも目を向け、具体的に何をするかだ。
■歯学部、薬学部にも受験資格を
野村麻実・名古屋医療センター産婦人科医師 働く大学院生に賃金を払うようにという通知が(文科省から)6月に出たので、改善されていくと思う。だが、産婦人科は人手不足の状態だ。やぶ医者でもいいからお産を扱ってくれないとやっていけない状況なので、今から医学部定員を増やしてもらっても、産婦人科はつぶれてしまうだろう。医師の増員に関しては、これまでも看護師の活用や、歯学部の人に麻酔を扱わせることなどいろいろ意見が出ている。私案だが、歯学部や薬学部の人にプログラムが足りないところだけ補講を受けさせ、医師が増えるまでの6年間、医師免許の受験資格を与えるようにすれば、来年度から医師が増える可能性もあると思う。■臨床研修現場でスタッフ不足
会場からの発言 東邦大の医学生だ。医師増員に関する時間だけが問題視されるが、医師になるまでの過程が問題とされていないことが学生にとっては気になる。臨床研修制度を受けても、実習病院のスタッフが足りない状態では効果がないのでは。対策があるのだろうか。
■メディカルスクールで増員を
本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長 今までは医療界が何もやらなかったから、医療費もスタッフも不足している。医師だけが少なくて看護師がいっぱいいてもいけない。人やお金を導入しながらやっていかないと、崩壊が加速する。大学教員を増やすのが大変だからやめようと言うのはどうか。すべて見直しながらやっていかないといけない。
医師増員の方法はいろいろあって議論が大変になるが、「メディカルスクール構想」がある。わたしは四病院団体協議会のメディカルスクール委員会で委員をやっているが、メディカルスクールは、4年間のうちの最初の2年間が座学で、残りの2年間が臨床研修になるシステム。既存の大学に人とお金は投入すべきだが、キャパシティーがある。欧州、韓国もメディカルスクールに移行しようとしており、(日本の医学教育のように)高卒を教育するのでなく、「本当に医師になりたい」と言う人を学士入学で育てようとするのが世界の趨勢(すうせい)。今の大学だけでなく、メディカルスクールをつくり、聖路加病院や済生会グループなど、理事長教育がしっかりできるところとタイアップして増員していくという手もある。
今は、患者さんから見て「どうか」と思う医師でも、いなければ病院がやっていけない状態だから、(医師間の)競争が必要。わたしがいつも言う「医師を増やす」ということにはその意味もある。医師が増えて万が一余っても、キューバもやっているように(医師派遣などで)国際貢献すればいい。
更新:2008/08/12 12:51 キャリアブレイン
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