【徳洲会医師が聴取主導 万波医師との映像公開 調査委】
宇和島徳洲会病院(貞島博通院長)での病気腎摘出六件すべてを「非」とした学会派遣の専門委員の報告内容を覆し、すべてを「是」とした三日の調査委員会。ねじれ現象に徳洲会グループの「意図」も疑われる中、同病院は十五日、三日の調査委の一部始終を録画した映像を報道関係者に公開した。上映後の会見で病院側は「調査委の公平性、透明性を担保した」と公開の理由を強調したが…。
「なぜ腎臓内科の専門医にコンサルト(相談)しなかったの?」「田舎にはおらん」―。同病院の会議室の白い壁に、万波誠医師(66)と調査委員のやりとりがプロジェクターで映し出された。大阪市のホテルで開かれた調査委の模様。万波医師が腎臓の絵を描きながら、泌尿器科の専門的な症例説明をする姿が続く。病気腎摘出の是非をめぐる会議は約二時間にわたった。
出席した調査委員十三人のうち十二人は、泌尿器科に関しては“素人”だった。専門家は、東京西徳洲会病院の古賀祥嗣・腎臓病医療センター長ただ一人。この日突如、調査委メンバーに名を連ねたグループ内の医師だった。古賀医師自身が振り返るように、三日の調査委は「私と万波先生との一問一答」だった。
「なぜ、唯一の専門家がグループの医師なのか」。記者会見での質問に対し、貞島院長は「万波先生から、より多くの話を聞き出すため」と答えるのが精いっぱい。「ならば学会派遣の外部専門委員を呼べばいい」と問い詰められると「思い至らなかった」と答えに窮した。
× × ×
「万波医師の患者は、移植だけが唯一の救いの道と確信している。これは日本医療の通念からみて一種独特で偏りがある。先入観を植え付けた医師の責任を問いたい」。宇和島徳洲会病院の万波誠医師による病気腎移植について医学的妥当性を検討した専門委員会メンバーが調査委員会に提出した報告書には、万波医師を“断罪”する言葉が並び、同時にそれを許した病院の責任に言及する記述が相次いだ。
専門委員六人が執筆した報告書。そこには「倫理的な手続きが全く顧慮されていず旧弊な悪い意味でのパターナリズム(権力支配)」「個人は医師の倫理に欠け、病院は管理責任に欠け、すべてにおいて実験的医療の資格が欠如している」。
ほかにも、倫理委員会の承認を得ない保険適用外薬品の使用や、カルテへの重要事項の記入漏れなどが並ぶ。現時点で調査委の判断に全く反映されていないA4判約五十ページに及ぶ報告書の大半は「万波移植」への批判に費やされた。
同病院の調査委は、昨年十月に発覚した臓器売買事件を契機に、第三者間移植や金銭授受の有無を調べる目的で発足。その調査委に対し、専門委の役割は、客観的・医学的な検討を加えることだった。
厳しい内容の報告を受けていたはずの調査委。しかし十五日公開された調査委の会合の映像は、時折冗談が飛び交い、何度も委員から笑い声が漏れるほのぼのムード。さらに唯一の泌尿器科専門家として急きょ委員に加わった徳洲会グループ病院の泌尿器科医が議論をけん引した。
報告書の内容に対し、能宗克行徳洲会事務総長は「学会に公表された複数の大学病院のデータに、専門委員が今回『非』とした腎臓摘出のケースと同様事例がある。それらの大学病院は患者に訴えられることになる」と述べた。その上で「専門委の意見だけが『錦の御旗』ではない」と強調し、調査委の結論に自信をのぞかせた。
× × ×
【4人中3人徳洲会関係者 調査委の構成に偏り 外部委員】
病気腎移植の適否を検討している宇和島徳洲会病院が、公正な調査を担保するために院内調査委員会(委員十三人)に外部委員として迎えた四人のうち、三人が徳洲会グループ関係者と共同事業をするなど、グループと関係があることが十五日、同病院の会見で判明した。グループの医師や職員、顧問弁護士の委員が九人で、グループと無関係の委員は一人だけだった。
調査委あてに、学会派遣の外部専門委員五人が出した報告書は、病気腎摘出を「問題あり」とし、移植を執刀した万波誠医師や同病院を厳しく批判する内容だった。しかし調査委は三日の会議で「摘出は適切・容認」など報告書と正反対で、同病院や万波医師に有利な結論を出していた。調査委の委員構成が偏っていたことで、三日の結論の客観性が問われるのは必至だ。
能宗克行徳洲会事務総長は十五日の会見で「調査委員会のメンバー構成に偏りがあったと批判されても仕方ない」と認め「調査委の委員構成比率を見直し、新しい外部委員に入れ替えていきたい」との意向を示した。
報道陣の指摘に対し、能宗事務総長は、徳洲会顧問弁護士と同じ法律事務所に所属する大学名誉教授、グループ関係者と合弁会社を設立した大学教授ら外部委員三人がグループと関係が深い人物だったことを認めた。調査委は検討内容によって同病院関係委員が増減しており、三日時点では委員十三人。グループと関係ない委員は日本移植学会から派遣された雨宮浩氏だけだった。
三日の調査委終了後、雨宮氏は「孤立無援の状態だった」と会合を振り返った。十五日、報道陣に公開された調査委の映像でも、万波医師の説明に対し、グループ医師や外部委員が“助け船”を出す発言が散見され、専門委員の「腎摘出の必要なし」との報告とは違った結論へと論議が進む様子が映し出されていた。