今年の人事院勧告には、国立の医療施設で働く医師の手当を平均で年間約127万円引き上げることが盛り込まれた。背景にあるのは、深刻な民間への人材流出に対する危機感だ。
国立がんセンター中央病院(東京都中央区)で今年3月に常勤の麻酔科医10人のうち5人が相次いで退職するなど、国の医療施設から給与の高い民間病院に転籍するケースが後を絶たない。同病院では手術件数を減らすなどの影響も出ている。
人事院の直近の調査では、国の医療施設の医師が平均年収で1134万5000円(46.6歳)なのに対して、民間は1393万3000円(43.3歳)。独立行政法人化して独自の給与体系となった国立病院機構の1261万4000円(45.4歳)とも大きな開きがあった。
人事院によると、民間との給与の差額は10年前の2倍に広がったといい、「これまでは国の施設の方が勉強する環境があるとか、全体として処遇がいいということで少々給与が低くても勤務医を確保できたが、ここまで差がついてしまうと状況が違ってくる」と説明。
最終的に「このままでは民間への流出を食い止められず、今の医療水準を維持するのは難しい」と事態を重くみた厚生労働省の要望を受ける形で、勧告に手当のアップを明記したという。
今回増額を勧告したのは、特に若手に手厚く支給される初任給調整手当。国立がんセンターや国立循環器病センター(大阪府吹田市)など高度専門医療センターのほか、各地のハンセン病療養所、刑務所などの常勤医計約1300人が対象で、勧告通り実施されれば国立病院機構とほぼ同水準の年収となる。
=2008/08/12付 西日本新聞朝刊=