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【社説】

北島金メダル 多様さを見つめよう

2008年8月12日

 北京五輪の競技が熱を帯びてきた。日本も二つの金で勢いに乗りそうだ。あまたの問題を内に抱える大会ではあるが、ここはしばし選手たちが繰り広げる人間賛歌を楽しみたい。

 なんとみごとな勝利だろう。北京五輪の競泳男子百メートル平泳ぎで、北島康介選手が連覇と世界新記録を同時に手にした。その泳ぎからはひたすら前進し続ける思いが伝わってきた。快挙は人々にとびきりの元気を届けたに違いない。

 大会序盤、日本勢の奮闘はほかにもあった。敗れはしたが、母となっても精いっぱい戦った柔道の谷亮子選手。同じ柔道の内柴正人選手は、極度の不振を乗り越えて金メダル第一号をもたらした。彼らの姿もまた、多くの人々を励まし、勇気づけたはずだ。

 人権問題にはじまり、過剰な国威発揚意識や強権的な姿勢、さらに大気汚染と厳しい批判にさらされてきた北京大会。ただ、競技となればスポーツが主役だ。諸問題を忘れるわけにはいかないが、しばらくはオリンピック本来の魅力を心ゆくまで味わいたい。

 肥大化、商業化などのゆがみがあっても、選手がこの至高の舞台にかける気持ちが強く、純粋なのはいまも昔も変わらない。それぞれのオリンピアンに特別な思いがあり、志がある。それこそが五輪本来の輝きというものだ。

 そして、オリンピックの一番の魅力はその幅広さ、多様さにあるのではないか。さまざまな競技とさまざまなアスリート。そこにはたくまずして固有の文化や民族性がにじみ出ている。勝負もさることながら、そんな多彩さ、異文化の味わいを楽しめるのが、オリンピックの素晴らしいところだ。

 日本は三百三十九選手を送り込んでいる。が、日本勢だけを、それも人気競技だけを見ていてもオリンピックの神髄はつかめない。五輪を真に楽しむためには、世界中から集まっている、多様な競技の多様な選手たちに広く目を向けていくべきなのだ。そうすれば、思いがけず未知の魅力に気づくこともあるに違いない。

 大会のホストである市民たちは初の自国開催で中国選手を熱烈に応援しているだろう。できればその一方で、彼らにも幅広く楽しむすべを試してもらいたい。オリンピックの魅力は、世界というものを肌で感じるところにある。草の根の市民たちが幅広い視野を持てば、大会を流れる空気もおのずと変わってくるはずだ。

 

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