単独機としては世界最悪の墜落事故となった日本航空のジャンボ機墜落事故から二十三年。この日は航空会社やメーカー、国土交通省など関係者すべてが空の安全をしっかりと確認する日である。
東京・羽田空港の一角。二年前に開設された同社安全啓発センターには今週から新たにメガネや腕時計、カメラのレンズなど乗客の遺品十七点が展示されている。墜落時間を示したままの時計は悲痛である。
事故は一九八五年八月十二日夕方に起きた。お盆の帰省客やビジネスマンなど乗客五百九人と乗員十五人を乗せた日航123便ボーイング747SR機が群馬県上野村の山中に墜落した。死者は五百二十人。世界に衝撃を与えた。
原因は機体後部の圧力隔壁が壊れて、客室内の空気が噴出したことが発端だった。
当時の運輸省航空事故調査委員会は「事故の七年前に起こった尻もち事故で圧力隔壁を修理したボーイング社の作業に不具合があった」と指摘した。直接の責任はボーイング社だが、日常検査など日航の責任も重大だった。
以後、日航は安全運航の徹底が経営の最大課題となった。しかし三年前には運航トラブルが続出し国土交通省から事業改善命令を受けるありさまだった。
同社の企業風土改革はまだ十分とは言えない。グループ全社員約五万人のうち半数以上が事故後の入社という。事故を風化させてはならない。若手社員への教育が重要だ。安全啓発センターを、繰り返し見学してもらいたい。
社内組織では安全推進体制の確立が重要だ。とくに整備部門は安全運航の鍵を握る。今後の新型機導入に備えるためにも大切だ。重整備などは海外比率が高いがもっと国内を強化すべきである。
国土交通省も航空輸送の安全対策にしっかりと取り組むことだ。事故やトラブル情報などを蓄積して情報を共有し活用したりパイロットや管制官などのヒューマンエラー防止対策を充実させる。航空会社への監督強化も不可欠だ。
航空・鉄道事故調査委員会は十月から外局の「運輸安全委員会」になる。事故の原因究明に加え企業へも直接、安全勧告する権限を持つ。調査力の強化が課題だ。
ジャンボ機墜落事故を題材とした映画「クライマーズ・ハイ」が評判を呼んでいる。あの事故は国民の記憶から消えることはない。犠牲者の冥福を祈りたい。
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