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【主張】新疆の警察襲撃 「和諧社会」どこへ行った
北京五輪の開会から数日にして「やはり中国での開催は時期尚早ではなかったか」と思わせる事件が相次いでいる。
9日に北京の繁華街で米国人観光客のグループが中国人の男に襲われ、米国人男性1人が死亡した。10日未明には新疆ウイグル自治区クチャ県でウイグル独立派のテロとみられる警察襲撃事件が起き、12人が死亡した。
五輪は世界の平和と友愛のシンボルである。国際社会は、中国の「人権や言論の自由を尊重する」との公約への期待を込めて北京五輪の開催を受け入れた。胡錦濤政権は「和諧(わかい)(調和)社会の構築」を掲げて公約を実行する姿勢を示していたが、現実には全くのかけ声倒れに終わっている。
胡政権には五輪の安全に万全を期すと同時に、今度こそテロや暴動の根源にある少数民族政策の是正や政治の民主化に真正面から取り組んでもらいたい。北京五輪がその転機となれば、開催の意義が再評価されることにもなろう。
中国公安当局は11万人の警備員と140万人の治安ボランティアを動員して北京市内の警備に当たっていた。しかし五輪観光で訪れた米国人男性が開会式の翌日、刃物で殺害されたことは重大な失態だ。再発防止に全力を挙げてもらいたい。外国人の安全も保障できないとなれば、中国に対する信頼は失墜する。
新疆ウイグル自治区のウイグル独立派によるテロは4日のカシュガル市に続き今月2回目だ。同自治区では人口(約2000万人)の6割をウイグル族をはじめとする少数民族が占める。彼らの自治権を本格的に拡大するなどして真の民族和解を進めない限り、テロはやまないだろう。
3月にはチベット自治区で大規模な騒乱が起きた。その後の胡錦濤政権とダライ・ラマ側の対話も進展がみられない。対話への絶望がテロを助長している側面もあろう。漢族社会でも共産党体制の腐敗、専横、極端な所得格差への民衆の怒りが大規模暴動の多発を招いている。言論・報道の自由を認め、民主化を進めない限り「和諧社会」は画(え)に描いた餅(もち)だ。
10日、クチャ県の襲撃事件を取材した本紙と時事通信の記者、カメラマンの3人が公安当局に身柄を一時拘束され、撮影したパソコン画像を削除されるなどした。極めて遺憾だ。公約した報道の自由を守るよう強く求めたい。