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NIKKEI NET

社説1 北朝鮮の時間稼ぎを許さぬ対応が要る(8/12)

 ライス米国務長官は日本政府に対し、米国による北朝鮮へのテロ支援国家指定解除が当初の期日とされた11日に発効することはないと伝えた。米側の柔軟政策に北朝鮮が誠実な対応をしなかったためであり、ブッシュ政権だけでなく次の米政権も北朝鮮政策の見直しを迫られる。

 テロ支援国家指定は米時間の10日で、ブッシュ大統領が議会に解除方針を通告して45日を迎えた。米国務省は当初、議会が指定解除に反対する決議をしない限り、11日に解除されると説明していたが、ホワイトハウスのワイルダー上級アジア部長は4日の記者会見で「11日は窓を開ける日であって締めきりではない」と解釈を変えた。

 ワイルダー発言には北朝鮮側の出方をさらに見守る姿勢がうかがえるが、米国は3カ月足らずで大統領選挙を迎える。ブッシュ政権にとっては次期政権を縛る妥協をするのは難しいし、許されないだろう。オバマ氏であれ、マケイン氏であれ、次期大統領は、ブッシュ政権末期の北朝鮮政策を改める必要がある。

 ブッシュ政権は初めは北朝鮮に強硬路線をとった。2005年9月の6カ国協議で北朝鮮が「すべての核兵器および既存の核計画を放棄する」と約束し、それが効果をあげたように見えたが、06年10月には核実験を実施、ブッシュ政権は同年11月の中間選挙の敗北もあり、07年1月に融和路線に転換した。

 その結果が支援を含む「初期段階の措置」を定めた07年2月の6カ国協議の合意だった。ことし6月のテロ支援国家の指定解除もその延長線上にあり、7月の6カ国協議は対北朝鮮支援は具体的に決めたが、非核化のための検証をめぐっては具体的合意ができなかった。

 核を政治的に使う北朝鮮の戦術からすれば、この結果は容易に想像できた。ブッシュ政権はあえて北朝鮮の「善意」に期待し、指定解除を議会に通告したが、解除見送りは、期待が裏切られたとブッシュ政権自身が認めたことになる。予想通り北朝鮮の時間稼ぎに利用されただけであり、ライス国務長官―ヒル次官補の判断ミスとなる。

 北朝鮮は遠からず小さな譲歩策を示し、支援の実行を迫るだろう。退陣が近いブッシュ大統領はそれには乗れない。当初は北朝鮮を封じ込める目的で発足した6カ国協議は支援組織に変質したようにも見える。米国の次期政権はこの点を含め、北朝鮮政策の全面的な点検を要する。北朝鮮の核を全面的に廃棄させる日は残念ながら遠い。

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