8日の北京五輪開幕をはさんで、中国西部の新疆ウイグル自治区で地元警察などを襲撃する流血事件が相次いだ。五輪妨害を狙ったウイグル独立勢力によるテロの可能性が高いという。いかなる主張があろうと、テロや暴力は許されない。
中国国営の新華社などによると、10日未明、同自治区クチャの中心部で武装グループ15人が公安施設や工商管理所などを爆弾で襲撃した。容疑者のうち8人は公安当局に射殺され、2人は自爆した。警備員1人も含め計11人が死亡した。
同自治区では4日もカシュガル市で武装警察部隊が襲撃され、16人が死亡。中国からの独立を求めるウイグル族の男2人が逮捕された。
同自治区はロシアやインド、カザフスタン、アフガニスタンなどと国境を接する。人口約2000万人の6割を漢族以外のトルコ系イスラム教徒ウイグル族ら少数民族が占める。
漢族とウイグル族の対立は18世紀の清朝による制圧にさかのぼる。ウイグル族は1933年と44年に「東トルキスタン共和国」などの建国を宣言したが、いずれも短命だった。共産党政権下で自治区になった後も独立運動がくすぶってきた。
中国政府は同自治区やチベット自治区に補助金で経済の底上げを図ったり、地元幹部に少数民族を登用したりしてきた。だが、3月のチベット騒乱で露呈したように少数民族政策はうまくいっていないばかりか、人権抑圧問題も浮上した。
7月下旬には少数民族が多い雲南省の昆明で連続バス爆破事件が起き、「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が犯行声明を出した。
胡錦濤政権が威信をかけた五輪を巡る治安が揺らいでいる。世界が見詰めている「平和の祭典」が安全に運営されるよう望みたい。
ギリシャの古代五輪に参加する都市国家は戦時であっても期間中は停戦したという。国連の潘基文事務総長は北京五輪に当たって世界に「五輪停戦」を呼び掛けた。ところが、開幕当日、やはり民族問題を抱えるグルジアでロシアとの軍事衝突が起き、新疆での流血事件が続いた。
中国当局はダライ・ラマ14世側との対話は始めたが、少数民族政策も見直さなければならない。