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社説:人事院勧告 「官の魅力」を取り戻せるか

 制度が転機を迎える中の勧告である。人事院は08年度の一般職国家公務員の月給、期末・勤勉手当の据え置きを勧告した。06年度以来2年ぶりの「ベア・ゼロ」勧告だが「8時間労働」を見直し、勤務時間の15分短縮を盛り込んだ。「時短」が実現すれば完全週休2日制を導入した92年以来だ。

 公務員制度改革の議論が進み、公務員に労働協約の締結が認められれば、人勧制度は廃止も含めた見直しを迫られよう。能力と倫理を備えた人材をどう確保するのか。福田改造内閣は新たな人事・給与体系の議論を急がねばならない。

 07年度は一般職の年収引き上げが9年ぶりに勧告され事実上、完全実施された。民間に景気の減速感が広がり、給与が伸び悩む中だけに据え置きはやむを得まい。一方で、国の医療施設の医師確保に向け、給与の特別措置を講じたことは理解できる。

 議論を呼びそうなのは、勤務時間の8時間から7時間45分への短縮だ。人事院は最近5年間の民間平均値に準拠したと説明、昼休みの調節などでサービス低下や超勤手当などコスト増を招かないと強調する。「居酒屋タクシー」など公務員の勤務に国民の厳しい視線が注がれる中だ。導入を決めるなら、各府省による実施状況の監視に万全を期すことが最低限、必要だろう。

 一方で、制度が岐路に立つ中の勧告でもある。さきの国会で成立した国家公務員制度改革基本法は、非現業の公務員に労働協約の締結権を与えることを担保し、3年以内の措置を定めた。給与も含めた締結を認めれば、労働基本権制約の代替措置である人勧制度はほぼ、使命を終える。

 とはいえ、協約の締結を認める公務員や、協約事項の範囲はいずれも明らかでない。労使交渉による協約締結を認めた場合、総人件費の抑制とどう両立していくかも課題だ。今後、政府が設置する労組との検討機関で、協約のあり方の議論を急いでほしい。

 基本法が定める「入試から定年まで」の人事体系見直しの具体像を、早く示すことも必要だ。国家公務員1種試験の合格者を優遇するキャリア制度の廃止を基本法は打ち出したが、新設される「総合職」は、従来の1種とどう違うのか、必ずしも明確でない。段階的に導入を目指す「65歳定年」も、定年前に「肩たたき」をする早期勧奨退職の慣行見直しが前提となる。

 社会保険庁のずさん業務や、道路特定財源のむだ遣いなどへの国民の怒りが強まる中、今年度の国家公務員1種試験の応募者数は2万1200人で、最低記録を更新した。「官」そのものの魅力が薄れている影響は否定できまいが、やはり優秀な人材は必要だ。そのためにも、政府は人事・給与両面にわたる制度改革の設計図を描かねばならない。

毎日新聞 2008年8月12日 東京朝刊

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