中学・高校、果ては小学校でも「学校裏サイト」なるものが王公している。
文科省の調査によると、その約半数には「キモい」「ウザい」など誹謗中傷の言葉が書き込まれており、中には「死ね」「殺す」などの物騒な文言まで頻出しているという。
こういったネット上のやりとりから実際のいじめや暴力沙汰に発展するケースが起きているそうだ。
これは脅迫罪にあたる立派な犯罪である。僕も子供時代は悪口を言ったり言われたりして育ってるのであまり偉そうなことは言えない。ただ僕は子供たちをこう諌めたいのである。
まず己の名を名乗りなさい。
言いたいことがあるなら、まず自らの名前を表明しなさい。匿名で他人の悪口を言うのは卑怯者のすることだと諭したいのである。
僕自身も悪口を言ったり言われたりした経験はたくさんある。
しかし言われたことは多くとも、言ったことはあまり多くない(これは僕の数少ない長所かもしれない)
批判はいくらでもするけども悪口を言うのは控えている。
今でも時々思い出すいやな思い出がある。
修学旅行の時、みんなで枕を並べて寝ていて、夜中に「まだ起きてる人いる?」と、起きているものだけ集まって、寝ている人の値踏みをはじめたのだ。
私は実は起きていた。でも寝たふりをしていた。
出席番号順に、寝ているやつを一人ずつ血祭りにあげていく。
そいつが好きか、嫌いか。気に入ってるか、気にくわないか、みんなで言いあうのだ。
なんという悪趣味。
何が許せないって眠ってるあいだに陰でこそこそ言うのが許せない。
言うなら本人の目の前で言え。
僕は自分の順番がまわってくるのを怯えながら身を固くして待っていた。
僕の番になった。
・・・背中で自分の悪口を聞くのは、つらかった。
面と向かって言われるより、陰で言ってるのを聞くほうがよっぽど傷つく。
そして言ってる人たちは僕が寝ていると思い込んでいるから、余計悲しかった。
そして、何よりも嫌だったのは、「俺は起きているぞこの野郎」と起き上がって噛みつく勇気を持たない自分だった。
そんなことをしたら次の日どんな顔をすればいいのか分からない、と考えてしまう小さい自分だった。
情けなかった。
今の僕は、あの頃よりは少しは強くなれているだろうか。
暗い話になった。話を戻す。
文献記録を遡ると、日本人が悪口を盛んに言い始めたのは戦国時代。
戦国時代と聞くと、武将たちが鎧を着て弓や刀で勇ましく戦っていた姿を想像しがちだが、案外そうではなかったらしい。
彼らは実践の前に、お互いに向き合って、
「ことばたたかい」
というものを繰り広げていたのである。
まず名前を名乗り、自らの身分や系譜、これまでの軍功などを口上して戦の正当性を主張する。
そして敵方に対して「この恩知らず」「乞食」などと悪口を浴びせかけたのである。
言われたほうも当然応戦する。
やりとりはルール化されていたようで、武器による戦い「所作(しわざ)」に対して、これを「言技(ことわざ)」と呼んでいたそうだ。
畳みかけるような弁論術で敵方を文字通り閉口させる。
そして「言われてみればそうかもしれん」と納得させて戦意を喪失させるのである。
ゆえに戦場では、力の強い者より口の達者な者が重用されたという。
最強の武器は言葉だった。
そして時に雄弁な者同士が悪口の応酬をすると、「敵モ味方モ道理ナレバ、一度ニドットゾ笑ケル」というように、戦場は爆笑の渦となり、結局戦をやめることにもなったらしい。
つまり悪口は、面と向かってお互いに吐き出すことで暴力を抑止するものだったのである。
そういう悪口なら受けて立つ。
こちらも負けじと言い返す。
陰湿でじめっとした悪口ではなく、真っ向勝負の悪口合戦なら僕は歓迎する。
そのもっとも基本的のルールが「まずは名を名乗れ」ということだろう。◆
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