九州のある県で県政担当を始めたころ、県幹部が議会に諮る案件の大半を正副議長よりも先に特定の県議に事前相談しているのを知り、驚いたことがある。既に議長も務めた長老格で、日ごろは表舞台に出ていなかったからだ。県職員はうかがいをたてることを、彼の選挙区名をとって「○○詣で」と称していた。
なぜそこまで? 職員は望む異動がかなうように依頼し、彼は県の上層部に口添えする。県幹部も議案を穏便に通してもらうため、大半を受け入れていた。恩恵にあずかった職員は各職場に根を張り、彼はその“子分”を通して陰で権勢をふるっていた。
大分を揺るがす教員採用・任用不正でも、県教委ルートの口利きの他に、「県議に頼めば100万円単位が相場」「人を介して頼んでやろうという話が来た」といった投書が寄せられた。県議の皆さんは金品の受け渡しはなかったと否定する。それでも教員採用で口利きを認める人はおり、合否の事前連絡は当たり前のように行われていた。
議員からすれば、支持者の頼みは票になって跳ね返るから断れないのだろう。コネを使いたがる依頼者もどうかしているが、「もうそんな時代じゃない」と毅然(きぜん)と断れなかったものか。
同じように90年に発覚した山口県の教員採用汚職事件でも、議員の影がちらついた。当時取材した同僚は「結局、議員ルートがうやむやに終わり、改善されないままだった」と振り返る。
大分県議会は人事や採用の口利きを禁止する決議の準備を進めている。「これで断りやすくなる」という本音も聞こえるが、不公正な口利き依頼は受けないという宣言で、襟を正して根絶するには有効な手だてだ。
閉鎖的な教員社会の悪慣習を断ち切り、熱意ある有為な教員志望者が不幸な目に遭わないために、決議だけでなく監視の目を光らせてほしい。<大分支局長・嶋岡倫志>
毎日新聞 2008年8月11日 地方版