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【社説】

オセチア 紛争の波及を防げ

2008年8月11日

 南オセチア自治州をめぐるロシアとグルジアの軍事衝突は、民族のるつぼであるカフカス全域に紛争が波及する引き金にもなりかねない。即時停戦し、事態打開へ対話を始めるよう両国に求める。

 平和の祭典・北京五輪に世界が沸き返る傍らで、グルジアでは人々が戦火に逃げまどう。その明暗に言葉を失う。

 グルジアは国家総動員令に続き戒厳令を敷いた。対するロシアも、戦車、装甲車が続々と侵攻し、空爆も敢行している。ただ、全面衝突に発展しかねない瀬戸際にあって、グルジア軍が南オセチアから撤退を始めたという情報もある。両国には自制を求めたい。

 ロシアとグルジアの確執は根が深い。十九世紀の帝政ロシアによるグルジア併合にさかのぼる。

 一九一七年のロシア革命直後、グルジアは独立を宣言したが、モスクワの共産党政権はグルジア弱体化を画策した。スターリンは親ロシア派のオセット人が多く住む南オセチアに自治権を与え、くさびを打ち込んだ。

 グルジア人のスターリンが祖国自立の芽を摘む、という皮肉な役回りを演じたわけだ。そのスターリンの呪縛(じゅばく)からこの地域がいまだ解き放たれていない現実を、オセチア紛争は見せつけている。

 ロシアに支配され続けた、という民族の怨念(おんねん)を背に、サーカシビリ政権は悲願の北大西洋条約機構(NATO)加盟へ一直線に進んでいる。

 それがロシアとの間であつれきを生む。今回の紛争の背後にあるのもNATO加盟問題だ。ただ、NATO諸国も紛争に巻き込まれるのを恐れて、グルジア加盟には二の足を踏むだろう。

 サーカシビリ政権に必要なのは、犬猿の仲の大国と国境を接するという現実を見据え、バランスのとれた外交をとることだ。

 一方のロシアも旧ソ連諸国を自分の縄張りと見なし、衛星国同然の扱いをするのをやめるべきだ。メドベージェフ大統領は「歴史的に、ロシアはカフカス住民の安全の保証人だったし、そうあり続ける」と軍事介入を正当化する。

 しかし、それは征服者の歴史観であり、グルジアのような被征服者には到底受け入れられるものではない。

 米国にも責任がある。サーカシビリ政権が強気なのは、米国の後ろ盾をあてにしてのことだ。グルジア説得に努めてほしい。

 

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