合法的に核兵器を持てる国を、現行の5(米英仏露中)から6カ国に増やそうということなのか。米国がインドとの間で原子力協定をまとめ、核燃料供給や原発建設などのビジネスに道を開くべく国際機関の承認を求めている。
核拡散防止条約(NPT)に背を向けてインドが核兵器を持ったことは、この際、大目に見ようというのだろう。
言うまでもなく、問題の多い協定である。これでは核兵器保有を5カ国に限定したNPTが完全に空洞化しないか。インドの核兵器を不問に付せば、北朝鮮に核廃棄を迫りにくくならないか--。そんな疑念がすぐ頭に浮かぶ。
日本は毎年、国連総会で核兵器全廃をめざす決議案を提出している。昨年も決議は圧倒的多数で採択され、くしくも米印と北朝鮮だけが反対した。唯一の被爆国として、北朝鮮の核におびやかされる国として、米印協定は身近な問題だ。
この協定発効への一里塚として国際原子力機関(IAEA)は、インドの核査察に関する保障措置協定案を承認した。インドの核関連施設22カ所のうち14カ所を段階的にIAEAの監視下に置く。軍用施設は対象に含まれないが、インドは従来6施設の査察しか許していなかったので、IAEA側は歓迎している。
だが、インドを特別扱いすれば、同国と張り合うパキスタンが同じ扱いを求めるのは目に見えている。パキスタンもNPTに加わらずに核兵器を開発し、98年にはインドとともに核実験を実施して南アジアの核戦争が現実味を帯びた。
経済成長著しいBRICsの一角をなすインドとの核ビジネスは魅力だろうが、パキスタンとの紛争再燃の可能性も含めて、インドは十分に安定した国とは言いがたい。両国やイスラエルの核に対抗心を燃やすイランの出方も大きな不安材料だ。
米国は月内にも「原子力供給国グループ」(NSG、日本など45カ国)の会合を開き協定承認を取り付けたい考えだ。インドへの核関連支援を実現するには全会一致の承認が必要になる。
日本はIAEAの保障措置協定には賛成したが、NSGに臨む態度は「白紙」だ。「北朝鮮情勢への影響を考慮する一方、インドの原発導入で地球温暖化対策が進む利点も考える必要がある」(外務省)という。
だが、ブッシュ政権の任期はあと5カ月。北朝鮮問題に全力を挙げるはずの米国が、他方ではインドの核兵器を認知させるべく奔走しているように見えるのは、いかにも据わりの悪い話である。
ここは、北朝鮮の核廃棄に集中すべきだ。「日本はインドの核兵器保有は認めたじゃないか」と北朝鮮が言い出せば、事態はさらに複雑になる。日本はインドの特別扱いに、明確に反対すべきである。
毎日新聞 2008年8月11日 東京朝刊