ホーム > きょうの社説


2008年8月11日

◎都市河川の水害対策 県、市の連携のまずさ解消を

 短時間集中豪雨ではんらんした金沢市浅野川の水害を受け、県が専門家による第三者委 員会を今月中に設置するのを機に、都市型水害への備えを抜本的に見直してほしい。

 河川行政では一時間一〇〇ミリを超える豪雨は極めてまれな異常気象と位置づけられて きたが、浅野川の水害では上流域で一時間一三八ミリが観測され、全国的に相次ぐ同様の豪雨被害を考えれば、いつ、どこで起きてもおかしくない状況といえる。従来の水害対策は通用せず、集中豪雨のたびに行政の側から聞かれる「想定外」という言葉も、もはや言い訳になりにくいことを認識する必要がある。

 治水は行政の危機管理が問われ、指揮命令系統を整えておくことが大事である。金沢で いえば、水系管理や水害発生時の対応で県、市の連携が極めて重要だ。浅野川、犀川は県、二河川をつなぐ用水網や市街地の雨水処理は市が担当しているが、行政の縦割りによる連携のまずさは被害拡大につながりかねない。今回の水害でも県、市の連携は十分だったのか検証してもらいたい。

 「減災」の視点でいえば、万一、堤防から川水があふれても、浸水被害を拡大させぬよ う水を逃がす仕組みが求められる。浅野川では市街地で堤防の「切り欠き部」から川水が流れ出たが、鋼材で閉鎖する県の対応が後手に回り、被害を拡大させた。あふれることを想定した排水対策がどこまで市にあったのか疑問も残る。

 一方、今回のような集中豪雨が市街地で発生した場合、今度は行き場を失った雨水を川 へ誘導する仕組みが重要となる。このように県が担う河川管理と市の内水対策は一体的なものである。

 浅野川は上流域にダム適地がなく、犀川への放水路が洪水調節機能を担っている。金沢 を貫流する二河川は市街地の用水網と合わせ、一つの水系と考えていい。さらに両河川の水門や雨水を集める地下雨水幹線、遊水池となる水田、校庭の確保などを一体的にとらえていく必要がある。総合的な治水システムを県、市、住民も交えて構築していかなければ新型の都市水害には対応できないだろう。

◎国出先機関の見直し 道州制と絡めるのは論外

 政府の地方分権改革推進委員会がまとめた国の出先機関見直しに関する中間報告を受け 、福田康夫首相が「分権改革は内閣の最重要課題」と改造内閣でも重要な旗印に掲げたのは当然としても、気がかりなのは出先機関の見直し論議の具体化とともに道州制が分権先送りの理由に使われ始めたことだ。分権推進委の丹羽宇一郎委員長が「浮ついた道州制の議論に意味はない」と苦言を呈したように、出先機関改革を道州制と絡めるのは論外である。

 これまでの道州制論議は端的に言えば、府県合併と国の出先機関の統合を合わせた形で 論じられる傾向があり、出先機関の統廃合は、その受け皿となる広域行政体としての道州制と結びつきやすい。

 だが、国出先機関の見直し論議は現行の都道府県制度を前提に進められており、分権推 進委が描く改革が実現すれば道州制はいらないことになる。実際、今回の中間報告の中でも、都道府県を超えた広域的な行政需要については選択肢の一つとして「広域連合」などが明示され、道州制には触れられていない。

 道州制ビジョン懇談会は二〇一八年までの道州制実現を打ち出し、自民党の道州制推進 本部も一五―一七年の移行を提唱した。目標時期が明示されて分権反対派から出てきたのが「道州制導入時に一気に分権を進めればいい」との先送り論である。

 国の出先機関は国家公務員三十三万人のうち二十一万人を抱え、地方整備局だけで年間 八兆円の予算を執行している。二重行政や予算の無駄遣い、官製談合などの問題が次々と明らかになり、統廃合を含めた出先機関の見直しは避けられないだろう。それは国と地方の在り方を抜本的に変える大仕事となる。

 第二期地方分権改革のまさに「本丸」ともいえる見直しがこれから本格化しようとする 時に、現行制度の枠を超えた「受け皿」論が一人歩きすれば分権論議は混乱するだけである。ましてや道州制の導入で地方分権を推し進めようなどとする考え方は本末転倒と言わざるを得ない。


ホームへ