街から急に減ったものの1つに氷屋がある。暑さ厳しい折、店先を通ると体が心地よい冷気に包まれ、氷を切るのこぎりのシャキシャキという音に聞きほれたものだった 中心街を歩行者天国にして催された「金沢ゆめ街道」に、夏の風物詩だった「白山(しらやま)氷」が登場した。冬の間に近郊の氷室に貯めておいた雪氷を販売した往時の風習で、ゆめ街道では白山山頂から空輸された万年雪も展示され、涼を添えた 白山氷の販売自体は大正期にはすたれ、街角の氷屋も冷蔵庫の普及などで数を減らしたが、おいしい水や氷はいま盛んに売られている。水は最高のごちそうであろう。水に無頓着な料理人はいないし、北陸の水に引かれて引っ越してきたそば屋の話も珍しくない 夏の氷は、楽しい思い出だけではない。家に病人が出ると、氷枕に使うために店に買いに走らされた。駄賃代わりにもらった氷のかけらを口に含むと、病人の苦しみを思って複雑な味がした 平成の白山氷は、地元の菓子職人が腕を競う美味に変身していた。が、水のおいしさ、氷のありがたさを教えてくれる風物詩に変わりはない。
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