福田康夫首相は北京五輪開会式に先立って北京市内で中国の胡錦濤国家主席、温家宝首相と個別に会談した。首相は、中国製ギョーザ中毒事件に関して捜査の加速と、消費者の不安解消のための情報開示の重要性を強調した。当然の要求ではあるが、中毒事件をめぐっては日中両政府の対応に問題が多く、疑念が強まっている。
五輪開幕を前に、中毒事件は新たな展開をみせた。六月に中国国内でも中毒を引き起こしていたことが判明したのだ。しかも、中国での被害者は、日本での中毒事件のギョーザ製造元である天洋食品(中国河北省)の冷凍ギョーザを食べて中毒症状を訴えていた。
天洋食品がいったん中国国内で回収した冷凍ギョーザが流通し、これを食べた中国人が中毒を起こしたとされる。その後の調査で有機リン系の殺虫剤メタミドホスが検出されたという。
日本では、昨年十二月から今年一月にかけ天洋食品が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉、兵庫両県の三家族合わせて十人が中毒になった。商品から日本で使用が禁止されているメタミドホスが検出されていた。
中国側は、日本の中毒事件の後「中国国内での混入の可能性は極めて低い」と主張してきた。一時は日本側に責任があると強硬な姿勢を示していたが、日本に輸出されていないギョーザからメタミドホスが検出されたことは、中国での殺虫剤の混入が確定的になったといえよう。
日中首脳会談で、胡主席は中毒事件に関し「一貫して重視している。できるだけ早く解決するよう全力を挙げる」と表明した。未解決のままでは、中国食品の安全に対する不信は払しょくできない。中国政府は、約束を守って事実を明らかにしなければならない。
日本側の問題は、中国での中毒被害発生が七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)前に中国側から外交ルートを通じて日本政府に伝えられていたのに、政府は約一カ月も公表を避けていたことだ。高村正彦外相は「中国側は『捜査にかかわることなので今は公表を差し控えてほしい』という話だった」と、中国側の要請に応じた措置だったと説明する。首相も「中国側の取り組みに協力するということだ」と述べた。そうだとすれば、国民の不安解消よりも、中国への配慮を優先したと言わざるを得ない。消費者は納得できまい。
日中は捜査協力を強めることが大切だ。情報を共有し、事実に基づく厳格な捜査を進めてもらいたい。
警察庁のまとめによると、今年の上半期に大麻の密売や所持などで摘発された人数は千二百二人(前年同期比12・3%増)に上り、過去最悪のペースで推移していることが分かった。
これまで大麻事件の摘発者が最も多かったのは、二〇〇六年の年間二千二百八十八人である。早く歯止めを掛けなければならない。
年齢別では二十代が六百七十五人で群を抜き、次いで三十代の二百八十六人、二十歳未満の百六人などの順となっている。今年五月にも、大学のキャンパス内で大麻を密売していたとして大学生らが逮捕、起訴された。若い世代に広がる大麻汚染の深刻さをあらためて示した。
目につくのが、大麻を栽培して摘発されるケースの急増ぶりだ。今年の上半期は七十三人と前年同期より46%も増えた。背景には、大麻取締法では種子そのものについて規制の対象外という点がある。さらにインターネットの普及で種子の入手や、栽培法の知識なども得やすくなっている面があろう。
だが、大麻取締法では大麻の所持や譲渡だけでなく栽培も禁じられている。種を手に入れて栽培すれば罰せられることを知っておかなければならない。
大麻を使用すると陽気になる一方で、五感が変調をきたすとか長期間続けると幻覚や妄想に陥るとされる。他の犯罪の引き金ともなりかねない。興味本位や「気分転換に」といった軽い気持ちが、大麻に心身をむしばまれて取り返しのつかない事態を招くことになる。
社会に大麻の落とし穴が、じわじわと広がっている。若い世代が将来を台無しにすることは何としても避けたい。大麻の恐ろしさを本人がしっかり肝に銘じるよう、社会を挙げて取り組んでいく必要があろう。
(2008年8月10日掲載)