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マルチ・レベル・マーケティング(MLM)業界初の政治団体、流通ビジネス推進政治連盟(事務局・東京都新宿区、NPU)の活動が本格化してきた。政治、行政へのロビー活動を通して社会的地位向上、業界の健全発展を掲げているが、このほど、NPUの活動に賛同した国会議員有志による「流通ビジネス推進政治連盟に協賛する議員連盟(前田雄吉事務局長、NPU議連)」も正式に発足、超党派による活動を展開していく。現在、経済産業省では特商法改正の審議が進められており連鎖販売取引への規制強化も想定されるが、これに対してNPUが反対行動を起こすことも予想される。NPUの形山淳一郎理事長と守屋直幸幹事長、NPU議連の生方幸夫議員、前田雄吉議員(両議員とも民主党)に業界の問題点、今後の活動方針などについて聞いた。
(聞き手は本紙記者・三瓶健、十二月十八日、衆議院第一議員会館で)
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座談会のようす |
企業間連帯を促進 業界の発言力強化ねらい |
MLM業界の 誤解と偏見 |
形山理事長 「はじめにネットワークマーケティングの歴史を振り返ってみたいと思います。ネットワークマーケティングは消費者参加型の流通形態として誕生しました。広告に頼らず口コミによって商品を伝えていく点が、従来の流通形態とは大きく異なります。ただの口コミなら他の販売手法でもあることですが、ネットワークマーケティングでは企業(統括会社)が商品を伝えてくれた人(会員)に対し流通のお礼としてコミッションを支払います。会員にとっては自分の口コミがれっきとしたビジネスになり得るわけです」
守屋幹事長 「他の流通形態に先駆けて新商品を作り出すことが多いのも特徴です。例えば、健康食品市場で注目されている『抗酸化』をいち早く商品に取り入れたのはネットワークマーケティング企業です」
形山 「戦後、米国では新しい流通形態としてフランチャイズとネットワークマーケティングが注目を集めました。ご存知のように、フランチャイズについては日本でもコンビニエンスストアや飲食店などあらゆる業種・業態でこの手法を取り入れたビジネスが生まれました」
生方議員 「フランチャイズは今や主要な流通形態として確固たる地位を得ている…」
形山 「ネットワークマーケティングはどうかと言えば、米国ではフランチャイズよりも展開した時期は遅かったものの、今では一つの流通形態として確立しています。実際に日本にも数多くの外資系企業が参入しています。ところが、日本では黎明期に悪質業者が跋扈したために『ネットワークマーケティング=悪』という概念が形成されてしまいました。マスコミも誤解や偏見のもとで報道するものですから、それが消費者にも誤った認識をもたらしています。なぜマスコミの誤解・偏見が解けないのかと言えば、広告に依存しないネットワークマーケティングはスポンサーソースにならないからです」
守屋 「とはいえ、業界側にも問題があったことは確かです。この業界はこれまで企業間の連携──ヨコのつながりがなく、業界主導による市場育成は全くと言って良いほど行われてきませんでした」
前田議員 「各企業に『ネットワークマーケティング業界の一員』という意識が希薄だったことが業界の健全発展を遅らせ、結果的に悪質企業の横行を許すことになってしまった。特商法の連鎖販売取引ではネットワークマーケティングを厳しく規制しているが、業界の過去の歴史を踏まえれば否めない部分はあるかもしれない」 |
業界初の 政治団体発足 |
形山 「近年はネットワークマーケティング企業同士の連携も徐々に活性化しています。シンクタンクのネットワークマーケティング研究所(宮澤政夫代表、NMI)では毎年シンポジウムを開催していますが、年を追う毎に参加企業が増えています。そして、このほど流通ビジネス推進政治連盟(NPU)が発足したことでこの動きがさらに加速することと思われます」
生方 「未だネガティブなイメージが多いとはいえ、業界が拡大したことで社会認知も進んだ。ここにきてようやく各企業が業界間の連携の必要性を認識してきたということか」
形山 「NPUでは、ネットワークマーケティングの社会的認知を向上させるためのロビー活動を展開していきます。日本のネットワークマーケティング業界ではこれまでロビー活動を行うような団体がありませんでした。そのせいもあって、政治家の方々の中にもこのビジネスに対して誤解・偏見を抱いている方が少なくありません。政治・行政への働きかけを通じて、業界の社会的役割の認知・向上を目指します」
守屋 「企業側からも政治や行政への橋渡し役の必要性を指摘する意見が多く聞かれます。我々は政治家の方々にネットワークマーケティングの本質を理解していただき、業界の内外にネットワークマーケティングの正しい姿と社会的意義を訴求していくことで業界のニーズに応えていきたいと考えています」
前田 「そして今回、NPUの趣旨に賛同した国会議員が『流通ビジネス推進政治連盟に協賛する議員連盟(NPU議連)』を立ち上げた。事務局長は私が務めさせていただくことになった。今のところ、民主党を中心に国会議員十数人が名を連ねているが、活動は超党派で行っていく。近々他党の議員もNPU議連に加わる予定だ」
生方 「NPU議連の発足には石井一先生(民主党副代表、衆議院議員)のバックアップがあった…」
形山 「NPU設立を決意した時に、その趣旨を石井先生にお話しさせていただきました。石井先生は米国の大学を出ておられて(スタンフォード大学政治大学院終了)、米国の流通事情にもお詳しい。ネットワークマーケティングについても正しい認識をお持ちです。石井先生はNPUの活動を理解して下さり、石井先生のご尽力によってNPU議連が設立されました。これまで政治団体がなかった業界に初めてロビー活動を行う団体が発足したことは大変意義のあることです」 |
「いいマルチ」と 「悪いマルチ」 |
生方 「ネットワークマーケティング業界の問題点を整理してみると、まず健全な企業と悪質な企業が混在している点が挙げられる。消費者がこのビジネスに参加しようとした場合、何を以って企業を選択すれば良いのか、そうした基準がない。そのため、悪質な企業に入会してしまって金銭被害、人間関係のトラブルを被ってしまうケースが少なくない。健全な企業と悪質企業の区分、これを進めないとネガティブなイメージは払拭されないのではないか」
形山 「ご指摘の通りです。この問題は、まず言葉の使い方から正していく必要があります。このビジネスは米国ではネットワークマーケティング、あるいはマルチ・レベル・マーケティングと呼ばれています。邦訳すれば多段階方式販売で、行政が常用する『マルチ商法』という言葉も本来の意味からすれば間違ってはいません。問題はむしろ、法律の中にあります。」
前田 「特商法ではネットワークマーケティングを連鎖販売取引と呼んでいる。これは英訳すればチェーンセールスであって、法律で禁止されているねずみ講(無限連鎖講)に相当する言葉だ」
形山 「マルチ商法にしても本来なら何の色もついていない言葉なのに、マスコミが正しい知識を持たずに報道するため消費者にはすっかり『マルチ商法=悪』というイメージが定着しています。問題なのは『マルチまがい商法』であってマルチ商法ではないのです」
守屋 「行政もネットワークマーケティングには否定的です。国民生活センターをはじめとする各地の消費生活センターにはマルチ商法に関する相談が寄せられていますが、その内容は単なる問い合わせのレベルから深刻な被害まで多岐に渡ります。しかし、それらすべてが一件の相談件数としてカウントされており、消費者行政上でも健全な企業と悪質な企業が混同されているのが実情です。健全な企業が悪質企業のあおりを受けて、正当な流通ビジネスであるネットワークマーケティングも批判の的になっているわけです」
生方 「マルチ商法とマルチまがい商法の違いは…」
形山 「商品の流通が実際にあるかどうかという点にあります。例えばねずみ講は人と金を集めるだけで、商品の流通は発生しません。また、一昨年に社会問題となった『全国八葉物流事件』では、あたかも商品の流通が発生しその利益が還元されるように見せかけていましたが、実態は流通などなく会員から集めた資金を回転させていただけのものでした。人を集めただけでは流通は発生しないのです。これに対し、ネットワークマーケティングでは会員の増加は即ち流通網の拡大を意味します。ある企業の商品を愛用している会員がその商品を身近な人に伝えていくことで、口コミによる流通が発生するわけです。会員は商品を直接会社に発注し、会社から直接商品を受け取ることになります。つまり、ある会員が商品を伝えて新しい会員が商品を発注すれば、そこに流通が起こるわけです。ネットワークマーケティングで会員に支払われるコミッションは流通を起こしたことに対するお礼で、他の流通形態における流通経費の部分に相当します。会員の増加に比例して流通網も拡大するわけですから、当然コミッションも大きくなります」
守屋 「一般的に、工場から出荷された時点の商品には、定価の30%のコストがかかっています。残りの70%は流通経費ということになりますが、コミッションに相当するネットワークマーケティングの流通経費は平均すると五割で、一般流通よりも流通コストを低く抑えることができるわけです。それは余分なコストをかけずに消費者から消費者へと直接伝えられるからです」
生方 「ダイレクトセリングによって流通経費を抑え、その分を会員に還元しているということになる」
形山 「『いいマルチ』と『悪いマルチ』の区分について補足をしますと、2000年の訪販法改正で連鎖販売取引を定めていた『特定負担二万円』が撤廃されました。これによりそれまで連鎖販売逃れをしていた企業すべてが連鎖販売企業として括られたわけですが、その一方で二万円をボーダーラインとしていた特定負担の歯止めが外されたことで、高額な特定負担を設ける悪質な企業も出てきました。例えば、八葉事件は出資法違反と詐欺で摘発されましたが、特商法上は何ら法律違反を犯していませんでした。特商法は八葉物流事件のようなマネーゲームに対して何ら威力を発揮できなかったのです」 |
形山淳一郎理事長 |
守屋直幸幹事長 |
前田雄吉議員 |
生方幸夫議員 |
求められる安全網の構築 政界、消費者への啓発併せ |
MLMの 社会的意義 |
守屋 「ネットワークマーケティング業界を健全育成しなければならない大きな理由として、雇用の問題があります。将来的に機械化、IT化、合理化が進めば、あらゆる産業で人を介さない商品の流通が多くなると予想されます。つまり、商売に人がいらない時代が訪れようとしているのです。大量の失業者を出さないためには人を介して発展するビジネススタイルを構築して、雇用を創出しなければなりません」
生方 「その通り。私も常日頃から雇用の創出を訴えています」
守屋 「経済は流通コストの分配が基本ですが、今後より多くの人に分配できる方法を考案しないと路頭に迷う人、家庭が増える危険性があります。ネットワークマーケティングは流通経費を分配するシステムですから、人を介したビジネスとしては最適です。このビジネス環境が整備され、さらに業界側が消費者の参加リスクを抑えるセーフティネット──例えば被害者が出た場合はその損失を補填するような仕組み──を構築して安全性を確保すれば、今まで以上に雇用の創出を促進し、日本経済の活性化にも寄与すると思います」
前田 「消費者がローリスクでネットワークマーケティングに参加できるようになるには業界、企業の自助努力が不可欠だ」
守屋 「もちろん業界が率先して襟を正していく必要があります。ですが、同時にマスコミや政治家の方々、さらに一般消費者にもネットワークマーケティングへの認識を正してもらわないといけません」
形山 「ネットワークマーケティングの社会的意義は『就業の機会の提供』のほかに、生き甲斐の提供やコミュニケーションの活性化などがありますが、税収面でも国益に寄与している点が挙げられます。統括会社、さらには個人事業主たるディストリビューターのほとんどが納税の義務を果たしています」
生方 「商品の伝達よりも金儲けに走ってしまう会員や悪質な企業が存在することは事実だとしても、実際にはそうした企業、会員は少数に過ぎず、大半は健全なビジネスを行っていることをどう知らしめるかが課題だ。消費者の中には商品は気に入っているがマルチ商法だということで拒否感を抱いてしまう人もいる。その誤解を解き、ネットワークマーケティングがサイドビジネス、本業として有用であることが社会的に認知されれば、消費者の参加も促進され雇用の拡大につながる」
形山 「先ほど申し上げた通り、まずは業界自身が率先してビジネス環境の健全化に努めなければなりません。すでに(社)日本訪問販売協会が連鎖販売取引に係る自主行動基準を策定しているほか、NMIでも『主宰企業が守るべき8つの行動基準』、『個人事業者が守るべき4つの行動基準』をビジネス憲章で定めています。同時に啓発活動を通してマスコミ、政治家の方々、消費者に正しい認識を持ってもらう必要があります」
「また、ネットワークマーケティングの社会認知向上を考えた場合、大手企業の参入が重要なポイントになります。これまでもカネボウやソニー、山之内製薬、仁丹など名だたる企業が参入して実績を残しています。また、業態研究の最終段階に入っている大手企業もあります。ですが、世間にはこれらの企業がネットワークマーケティングを行っていることは知られていません。ネットワークマーケティングは他の販売チャネルに比べても高収益を確保できる業態なので大手企業も注目しているのですが、社会的認知が得られてないため公表できずにいるわけです。私はコンサルタント業務も行っておりますが、常々『やるからには堂々とやって下さい』と言っています。大手が堂々とネットワークマーケティングを行えば世間のマイナスイメージも変わるでしょうし、結果的に大手が参入しやすい環境が形成されてゆくでしょう」 |
健全なビジネス 環境の構築に向けて |
形山 「現在、経済産業省の産業構造審議会で特商法の改正について議論が進められています。中身は、販売目的を隠匿した勧誘の禁止や、不実告知等で契約した場合の契約取り消し、返品ルールなど、ネットワークマーケティングの規制を強化する方向性で審議されています。そもそも、特商法の連鎖販売取引に関する法律は『臭いモノには蓋』という方針のもとで作られたものです。悪質な企業だけでなく健全な企業も含めてすべての連鎖販売業を規制するものであって、そこには業界の健全育成という概念が存在しません。ネットワークマーケティングの社会的意義が高まりつつある今、法律に求められているのは単に規制するのではなく、この業態を健全なかたちで育成するというスタンスです」
生方 「規制緩和によって健全な企業、業界の育成を図ると同時に、悪質な企業に対しては厳しい姿勢で臨む必要がある」
守屋 「法改正によって業界全体を規制するのではなく、健全な企業と悪質な企業の見分け方を啓発するべきです。例えば、消費者が安心して参加できる健全な企業に対しては『マル適マーク』のような健全性を裏付ける制度を設ける必要もあると思います」
前田 「法改正を議論するよりも、消費者への啓発、周知徹底が早急な問題だ。それがトラブル防止にもつながる」
生方 「業界が独自の姿勢を示し、世間に対してこれ以上の規制が不要だということをアピールする必要がある。例えばの話だが、企業認定制度が一般消費者がビジネスに参加する際の一つの指針となって、健全な企業が発展し、悪質な業者が淘汰されることになれば理想的だ」
形山 「NPUとしては、ネットワークマーケティングは現時点では問題を内包しているが、将来的には日本の流通業の主要となる新しい流通だと考えています。就業機会の創出にも寄与しており、社会的に意義のある業態であるということを行政、政治家の方々、消費者に知っていただくために活動していきます。本日はお忙しい中ありがとうございました」 (文中敬称略) |
【 座談会を終えて 】
「業界の育成に」一定の評価 他方で政治色懸念する声も |
座談会に臨むにあたり、政治家がMLMに対してどのような見解をもっているのか興味をひかれた。感想を一言でまとめると、意外にもMLMに対するイメージがネガティブなものではなかったことが印象に残った。
しかしながら、その一方でMLMの実態把握については認識不足という感が否めなかった。当初出席予定だった海江田万里議員、池田元久議員(いずれも民主党)が急きょ欠席したことも残念な点だった。
座談会に参加した生方議員、前田議員を含め、NPU議連に名を連ねた国会議員は現時点で十数人にのぼる。だが、座談会の内容を踏まえた上であえて穿った見方をすれば、MLMの実態を正確に把握した上で賛同した議員がどれだけいるのか疑問が残る。
もっともこれはやむを得ない面もある。議員は日夜政治活動に忙殺されており、議連の活動だけに係ってはいられない。形山理事長は、業界側がこれまで政治家に対し何らアピールをしてこなかったことも起因していると指摘している。企業が独自のルートで働きかけることはあったかもしれないが、業界としての政治的活動はなかったため、政界ではMLMが一つの流通形態として認知されてこなかったわけだ。NPUでは今後、勉強会を通してMLMの実態を啓発していくとしているが、MLMのもつメリットとともに水面下で多発しているネガティブな側面も開示していくことに期待したい。
業界の中ではNPUに対して「これまで消費者サイドからしか議論されなかったMLMが、別の視点で見られるようになるのは評価できる」と、比較的肯定的な意見が多い。その一方で、「MLMの特徴は思想信条に係らず誰でも自由に参加できる点にある。特定の政党を支持するような活動になっては、業界の賛同は得づらいのではないか」(業界関係者)と、活動に偏りが出ることを懸念する声もある。
NPU議連は現時点では民主党議員のみで構成されているが、NPUは超党派による活動を行う方針で、他党の議員からも打診があるという。
また、政治家がどの程度MLM業界に関心を持っているのかという点も気になるところだ。「産業の育成」と「雇用の創出」という大義名分の一方で、MLM業界を新たな「選挙票」と「政治資金」のベースと見なす点は否定できないだろう。業界、政治家双方にメリットがなければ活動が活性化しないのも事実だ。ただ、MLMは多種多様な人々が参加している業態。政治資金はともかく、選挙票の確保は難しいとする見方もある。
いずれにしてもNPUの活動は始まったばかりで、その方向性は未知数。今後の活動を注視していきたいところだ。 |
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