【概 要】
物質工学工業技術研究所は,ポリマーで成形する新型花火を製造する技術を開発した。
これまでの花火は,粉体のままか,みじんこ糊(米を徴粉化した糊)で固めていた。しかし,粉体のものは,打撃や摩擦により発火しやすいため,製造から消費に至るまで数多〈の事故を起こしてきた。また,みじんこ糊で固める製造方法は,日乾(につかん),すなわち,太陽光で自然乾燥させる工程かが不可欠であるため,完成するまでに多くの時間と労力を必要とした。さらに,日乾中に異物が混入したり,温度上昇に伴い発火したと見られる事故も生じている。
今回,開発したポリマー花火は,こうした弊害を解決するためのもので,「安全な花火」を目標としている。つまり,ポリマーでゴム状に固めることにより,打撃や摩擦に対して鈍感にすることができる。また,花火原料のそれぞれの成分がポリマーにより,分離された状態にあるため,化学的にも安定な状態といえる。また,硬化剤により,化学的に固めることができるので,これまでの日乾に比べ,製造時間および労力を格段に抑えることができるし,悪天候でも製造できる利点がある。
この技術はロケット推進薬の製造技術を応用したものである。たとえば, H−2ロケットやスペースシャトルの両側には,固体のロケット推進薬が入っているが,これは,酸化剤とアルミニウムをポリマーで固めたものである。ボリマーを入れなければ,非常に危険な物質であるが,ポリマーで固めることで,ロケット推進薬は数10トンを超える量でも安全に取り扱うことができている。一方,花火も酸化剤と色を出すための金属でできており,化学的な反応は固体ロケット推進薬と変わらない。そこで,ロケット同様,ポリマー化すれば,安全になることが期待された。実際に,粉体の花火の春風或物は金槌でたた〈と発火することがあるが,ポリマーで固めた花火は,どんなに強くたたいても発火しない。
安全性に加え,ポリマー花火には花火の新しい可能性が出てきた。成形ができるのだか
ら,硬く作れば,柄のない手持ち花火ができるだろうし,円状や文字状に成形することもできる。また,適度の柔らかさにすれは,使う時に自由に曲げることができる花火もできる。更に,星(打ち上げ花火の中の1つ1つの火となるもの)は,これまでは真球にはできなかったが,この技術を使えば容易であるし,変化星(途中で色が変わる星)も精密につくることができるであろう。
現在は,ボリブタジエンという比較的高価なポリマーを使い,基本的な花火組成物を試作しているが,今後は,安価で花火に適したポリマーを探索していく。また,花火の色の効果の設計も含めて,科学のメスを入れることで,伝統的な花火を更に発展させていくことを目指している。