西日本新聞

解剖率低迷、地域差も 変死体 犯罪見落としの恐れ 法医学会 「各県に拠点を」

2008年8月10日 00:27 カテゴリー:政治

 変死事案などで警察が取り扱う遺体が増える一方、解剖率が低迷している現状を受け、日本法医学会(理事長・中園一郎長崎大教授)は、国の予算で専門医を確保し、死因を究明する「死因調査事務所」(仮称)を各都道府県に設置するよう求める提言をまとめた。大相撲時津風部屋の力士死亡事件など死因究明体制が問われる例は後を絶たない半面、9割以上の遺体が解剖されないまま「事件性なし」と判断されており、法医学会は「犯罪を見落としている可能性は否定できない」と警鐘を鳴らしている。 (東京報道部・伊藤完司)

 警察庁によると、警察が取り扱う遺体は1997年には全国で約9万4000体だったのが、年々増え、2007年は約15万4000体と、この10年で1.5倍になった。一方で07年に司法解剖が行われたのは約5900体で全体の3.8%。行政解剖を加えても約1万5000体にすぎず、解剖率は9.5%にとどまる。

 その上、解剖率は地域差が大きい。死因不明の遺体を行政解剖する「監察医制度」がある東京都は07年で17.7%、同制度を持つ横浜市を含む神奈川県は28.1%に達する。一方、同制度がなく行政解剖の実施が少ない九州・山口はいずれも全国平均を下回り、福岡県が2.3%、鹿児島県が2.9%、長崎県が3.9%にすぎなかった。

 九州では専門医不足も深刻だ。佐賀県では司法解剖を引き受けていた佐賀大教授が昨年転出し、後任も決まらず、専門医がゼロに。今年1月から福岡県や長崎県の大学に司法解剖を依頼する異常事態が続いている。

 法医学会が提言する「死因調査事務所」は監察医制度と同様に、死因が分からない遺体を専門医が調べ、行政解剖して死因を究明する。各都道府県に事務所を設け、法医・病理医を最低1人、全国で120人を確保するよう求めている。解剖だけでなく、中毒の検査や遺体の画像診断ができる施設の整備の重要性も指摘している。

 昨年6月に起きた時津風部屋の力士死亡事件では司法解剖を怠った愛知県警が捜査ミスを認めた。これを受け、警察庁や法務省は昨年末、関係省庁連絡会議を設けたが、抜本的な対策は打ち出せず、今年3月以降は会合すら開かれていない。

 日本法医学会理事で庶務委員長の久保真一・福岡大教授は「力士死亡事件で死因究明の社会的要請は高まったのに、省庁連絡会議は成果を出せなかった。死因を調べようともしない『死因無視社会』とも呼べる状態だ」と指摘。国費での整備を訴える理由については「新たな地域格差を生じさせるべきではない。財政基盤が弱い自治体では死んでも死因が分からないことになりかねない」と強調している。

=2008/08/10付 西日本新聞朝刊=

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