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社説

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グルジア紛争―武力では決着できぬ

 旧ソ連崩壊で独立した新興国のひとつ、黒海沿岸のグルジアで、激しい戦闘が始まった。グルジア政府軍と隣国ロシアの軍がぶつかり、砲撃戦や航空機による爆撃などで多数の犠牲者が出ていると伝えられる。

 争いは、グルジアのロシア国境に面した南オセチア自治州をめぐって起きた。オセット人という少数民族が多く住むところで、国境をはさんだロシア側の北オセチア共和国と一緒になりたいと要求し、グルジアの独立前後から政府側との武力衝突が続いてきた。

 ロシア軍が平和維持軍として展開して大規模な戦闘はなくなったが、事実上、グルジア国内の小さな独立国のような存在になっている。

 今回の衝突がどんなきっかけで始まったのか、はっきりしない。グルジア政府軍が自治州の制圧を目指して進攻し、ロシア側が反攻に出て戦闘が広がったというのが大きな構図だ。

 国連の安保理が緊急招集されたが、ロシアと米国などが対立して身動きがとれない。ロシアは自らの利害や思惑をひとまず置き、戦闘の即時停止に動かねばならない。それが拒否権を持つ常任理事国としての責任だ。

 米国も仲介に入るべきだ。グルジアのサアカシュビリ大統領(40)は米国で学び、ニューヨークの法律事務所で勤務した経歴を持つなど、米国との結びつきは深い。ロシアとの対立を強める同大統領を米国が支えてきた面もあるのだから、責任の一端は免れまい。

 南オセチアをめぐる対立には、単なる少数民族の問題を超えて、国際政治のパワーゲームが絡んでいる。

 グルジアは独立以来、北大西洋条約機構(NATO)入りを目指すなど、ロシア離れを鮮明にしてきた。その一方で、カスピ海周辺の原油や天然ガスのパイプライン・ルートとしての戦略的な重要性も増している。

 だからこそ、90年代の経済困窮から立ち直ったロシアは、経済封鎖に近い強硬策でグルジア政権を締めつけ、影響力を強めようと動いてきた。南オセチアやアブハジアなどの親ロシアの分離独立運動を支えてきたのも、そうした思惑と無縁ではないはずだ。

 なおさら西側への傾斜を強めるサアカシュビリ政権に対し、米欧は協力姿勢を見せるものの、ロシアとの決定的な対立は避けたいという本音ものぞく。今回の武力進攻には、そんな煮え切らない米欧を強引に動かそうという計算もあったのかもしれない。

 南オセチアが分離するか、自治州にとどまるか。これを軍事で決着しようとなれば、旧ソ連のあちこちに残る少数民族問題が火を噴き上げるのは間違いない。戦闘をやめ、対話のテーブルにつく。これしか方法はない。

 国際社会は、国連などを使ってそれを後押ししなければならない。

仕事と生活―バランスで充実の人生を

 あなたは「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス)を知っていますか。

 こんな質問を内閣府が世論調査で投げかけた。答えは「名前も内容も知らない」が一番多く、60%に達した。

 「仕事と生活の調和」は、少子・高齢社会に向けて政府が新たに掲げた目標だが、なじみが薄い。

 長時間労働や過労死、非正規雇用など、働く現場は深刻な問題が山積みなのに、「仕事と生活の調和」とは、なんとも能天気なスローガン、と感じる人も多いだろう。

 だが、政府に言われるまでもなく、仕事と生活の調和は大切なことだ。私生活を犠牲にしない働き方をする。家族と過ごす時間をたっぷり持つ。自分の様々な能力を磨くための勉強をする。人生を豊かにするには、どれも欠かせない。

 そもそも長時間労働や過労死は、仕事と生活の調和が崩れているからこそ起きているともいえる。

 問題は、どうやって「調和」を実現していくかだ。

 一番深刻なのは、30代から40代にかけての男性で、働く時間が長くなっている。働き盛りの世代であることに加え、バブル崩壊後の不況でリストラが進み、新規採用が抑えられて、仕事が集中した。うつ病になったり、過労死したりする人も増えている。

 この世代には子育てに意欲のある人も増えてきたが、男性の育児休業の取得率はまだ1.56%だ。

 一方で、女性は出産を機に7割が仕事を辞めてしまう。仕事と子育てが両立しにくいことが背景にある。

 こうした問題を解決していくには、まず個人の意識改革や企業の積極的な対応が重要なカギになる。

 自分の仕事ぶりを振り返ってみよう。例えば、男性はもっと効率よく働いて、家族と過ごしたり、家事をしたりする時間を増やせないか。もちろん育児休業も取りたい。そうすれば、女性が仕事と子育てを両立できることにもつながる。

 米国では、仕事のやり方を見直して無駄を省けば生産性が向上し、社員の生活にも余裕が出るという研究結果が出ている。それを実行している企業も少なくないという。

 企業が仕事と生活の調和に取り組めば、働く人の満足度が上がり、業績向上にもつながるはずだ。トップにこそ考えを変えてもらいたい。

 政府はかけ声だけでなく、制度の改革を強力に進めるべきだ。

 例えば、父親が育児休業を取りやすい仕掛けを法律に加える。「短時間正社員」を制度化する。仕事と生活の調和に関心をもつ企業向けにアドバイザー制度をつくる。そんな具体的な後押しがほしい。

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