福島県発注のダム建設工事をめぐる汚職事件で、収賄罪に問われた前知事の佐藤栄佐久被告に東京地裁は懲役三年、執行猶予五年(求刑懲役三年六月)、同じく佐藤被告の実弟の衣料品製造会社元社長祐二被告に懲役二年六月、執行猶予五年、追徴金約七千万円(求刑懲役二年六月)の判決を言い渡した。
職務権限を持つ栄佐久被告が、金銭的利益を直接受けていないのに立件された珍しいケースだった。地裁は「犯行の背景には、福島県発注の公共工事に関する不正が介在していたと言うほかない」と前知事を断罪した。ただ「積極的な役割を果たしていない」と執行猶予などの理由を説明した。
判決によると、栄佐久被告らは二〇〇〇年八月の「木戸ダム」工事入札で、前田建設工業(東京)に便宜を図った謝礼として、祐二被告が経営していた衣料メーカーの本社があった福島県郡山市の土地を、前田建設工業側の意向を受けた下請けの水谷建設(三重県)に約八億七千万円で買い取らせた上、時価との差額約七千万円をわいろとして受け取った。
両被告は公判で無罪を主張したが、判決は捜査段階での自白を信用できるとし、祐二被告と水谷建設の土地取引について、ダム工事受注の謝礼と判断した。そのうえで両被告は「意思を通じて土地を売却した」と共謀を認めた。
土地取引のわいろ性も焦点だった。検察側が、わいろを約一億七千万円と主張したのに対して、判決は追加で支払われた一億円を土地売却代金と認めず、わいろは約七千万円とした。それでもわいろ性を認定したことは、発注者としての首長の責任を極めて重く判断したものといえよう。
栄佐久被告は、初当選以来、五期十八年にわたって福島県政のトップを務め、クリーンなイメージで知られていた。それだけに、実弟を隠れみのにして公共工事を食い物にしたことは、県民に対する重大な裏切り行為である。
自治体の首長は「大統領制」と呼ばれるほど、予算の編成・執行で大きな権限を持っており、とりわけ地域の中での知事の存在は大きい。福島県知事の汚職事件を契機に、首長の多選の弊害を指摘する声が高まり、法改正の動きも出た。また、近年は地方分権が進む中、官製談合など業界と癒着した古い体質の解消が課題となっている。
入札制度の一層の透明化を進めるなど、情報公開が求められる。さらに首長が自らを厳しく律することが必要だ。
政府は、八月の月例経済報告で景気の後退局面入りを事実上認めた。二〇〇二年二月から続いた戦後最長の景気拡大は既に途切れている可能性が高いと指摘している。
月例報告では、国内景気の基調判断を「景気は、このところ弱含んでいる」として、七月までの「景気回復は足踏み状態にある」から下方修正した。「弱含み」という表現を使うのは景気が後退局面にあった〇一年五月以来、七年三カ月ぶりで、日本経済の安定した成長を示す「回復」という言葉も消えた。
景気悪化は、米サブプライム住宅ローン問題による米国経済の減速の影響が大きい。自動車や家電など日本からの欧米向け輸出に急ブレーキがかかり、企業の生産活動が落ち込んだ。原油や原材料価格の高騰で企業収益も急速に悪化し、賃金や雇用情勢にも悪影響が出ている。さらにガソリンや食品などの値上がりによって個人消費も大幅に冷え込む。
与謝野馨経済財政担当相は「日本経済は楽観視できない状況だ」との厳しい認識だ。米国経済や原油価格の動向次第では、景気がさらに下振れするとの懸念も示している。
これまで政府は、米国経済が持ち直せば日本の輸出も増加して、「踊り場」にある日本の景気も緩やかに回復するとの見方を取ってきた。しかしサブプライムローン問題の根は深く、政府の景気回復シナリオの実現は暗い。今後は景気後退を前提とした経済政策が必要となろう。
来週初めにも政府は、原油や食料の価格高騰に対する緊急経済対策を公表するが、大規模な財政出動によるばらまきは避けるべきだ。中小企業や農業など産業の体質を強化し、内需主導型の日本経済へ転換する視点が何よりも重要である。
(2008年8月9日掲載)