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暗転日本経済:「景気後退」の現場から/1(その2止) 開発投資抑えるトヨタ

 <2面からつづく>

 ◇あえぐ東海の下請け

 「米国の景気低迷がうちにまで及んできた。久々に減収決算になるかもしれない」。トヨタ自動車の孫請けで、約150人が働く名古屋市内の金属部品メーカー専務は厳しい表情だ。

 トヨタは米国で販売不振の大型ピックアップトラック「タンドラ」の生産を8日から3カ月間停止する。低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題や、ガソリン高による米新車販売の大幅減少の影響だ。この孫請け会社にとって、タンドラ向けの部品は売り上げの1割を占める主力商品。「ほかでは穴埋めできない」ほどの痛手だ。

 トヨタは5月、09年3月期の連結業績が9年ぶりに減収減益に陥るとの予想を発表した。鋼材の価格が1トン当たり過去最高の10万円台と前年度比3割以上値上げされたことや、米国での予想以上の販売低迷が業績の先行きに影を落とす。

   × × ×

 愛知県江南市の金型メーカー、江南特殊産業(従業員約160人)は新工場の着工を見合わせた。用地は取得しているが、野田泰義社長(66)は「足元の業績は好調だが、トヨタが新規開発投資を絞り込んでおり、今後の需要が不透明なのでしばらく様子を見たい」と話す。

 同県内の別の金型メーカーも「売り上げは前年比で1割強落ちた。トヨタが新車の開発投資を減らしているからだ。2~3割の売り上げ減に泣く同業者もいる」と打ち明ける。

 金型も扱う同県大府市の金属プレス業、福富金属(同約70人)も今年度の設備投資の予定額を1億円から半分に減らした。

 工業製品やその部品の量産に使われる金型は、新製品の開発段階で専門業者に発注される。大手メーカーの開発投資方針に業績が左右されることから、金型業界は「景気の先行指標」といわれる。トヨタが徹底して無駄を省き、新車開発コストを抑えれば金型の新規需要は伸びない。金型メーカーの叫びからは、「常勝」といわれたトヨタの勢いが鈍化している一端を垣間見ることができる。

   × × ×

 日本の景気が拡大局面に入った02年3月期以降の6年間で、トヨタの連結売上高は約2倍の26兆円に拡大した。トヨタを中心に輸出型企業の生産拠点が集まる東海3県(愛知、岐阜、三重)の07年の鉱工業生産指数は、02年比で30・9%増と全国平均(17%増)の2倍に相当する伸びで、国内経済をけん引してきた。

 だがそこでも、景気後退の足音が忍び寄りつつある。3県の鉱工業生産指数は今年3月に前年同月比0・7%減と3年5カ月ぶりに単月ベースでマイナスに転落。5月は前年同月比1・4%増とわずかにプラスだったが、全国平均(同1・1%増)の伸びとほとんど変わらない水準となった。

 北米市場の不振を受け、トヨタは生産子会社のトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)で従業員の約1割に当たる約800人の派遣社員の一時契約解除に踏み切った。トヨタの減速は東海地区に限らず、全国に波紋を広げている。=つづく

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 ■ことば

 ◇景気後退の判断手法

 経済には好不調の波があり、その頂上(山)を過ぎて下り始め、底(谷)に達するまでを景気後退期と呼ぶ。景気の「山」「谷」の判断は、内閣府が景気動向指数の長期間のデータから精緻(せいち)に計算し、学識経験者で構成する「景気動向指数研究会」(座長・吉川洋東大教授)の意見を踏まえて正式判定する。判定時期は通常、山や谷と想定される時期から1年ほど後となる。

毎日新聞 2008年8月7日 東京朝刊

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