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【社説】

福島前知事有罪 裁かれた『巧妙汚職』

2008年8月9日

 知事の弟、ゼネコンの下請けが“分身”だ。お互いの土地取引で賄賂(わいろ)をひねり出した。福島のダム工事をめぐる汚職事件で、前知事佐藤栄佐久被告に有罪判決が出た。公共事業への監視を強めたい。

 談合や賄賂が許されないのは、当然ながら、高い金額で公共工事が発注され、ツケが国民の税金に跳ね返ってくるからだ。便宜を受けた業者からは、むろん発注権限のある人物に謝礼が渡る。

 東京地裁の判決は「建設業者から得た利益の一部が、佐藤被告の選挙資金や弟の縫製会社の再建資金に還流していた」と認定した。しかも、佐藤被告自身がかつて、縫製会社の役員であり、「政治活動の出発点」「(会社の)経営状態を改善することは自分の政治生命に関係する」とも指摘した。

 公共事業と賄賂と選挙。この三点セットがそろっているのが、福島県発注のダム建設汚職事件だ。「土建国家」の悪弊が続いていた何よりの証左といえる。

 一九九三年のゼネコン汚職事件では、「天の声」という言葉が話題をさらった。政界実力者が受注調整をすることだ。その後も腐敗は形を変え、巧妙化していたわけだ。知事の弟という“分身”が二〇〇〇年の入札で、県土木部長に対し、準大手ゼネコン前田建設工業への受注を働きかけていた。

 とくに縫製会社の土地を前田建設の“分身”たるサブコン水谷建設が、相場より約七千三百万円も高く購入した点が注目される。偽装を凝らし、賄賂を捻出(ねんしゅつ)したのだ。悪質だと言わざるを得ない。

 佐藤被告が五期十八年も知事の座にあった多選の弊害もあろう。入札制度に不正がはびこる余地があることにも留意したい。

 大型公共工事では、九四年から一般競争入札方式が実施された。九八年からは請負価格に業者の技術力などを審査して受注先を決める「総合評価落札方式」が取り入れられた。〇三年には官製談合防止法が施行された。

 ところが、今年六月にも、国土交通省北海道開発局で官製談合事件が起きた。不正は根絶されていない。公共事業の予算は、九八年をピークに下降線をたどっている。建設業界も必死だろう。

 地方の「大統領」と呼ばれる権限をもった知事には、今後も業者が取り巻くはずだ。公共事業には二重三重の監視の目をもつ仕組みをさらに整えるべきだ。透明性や公平性の確保がないと、「地方の大統領」がのさばる。

 

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