北京五輪が異例の厳戒態勢の下、幕を開けた。中国は21世紀の大国として国際社会に認知される歴史的節目にしたい考えだ。だが、五輪開催決定時に約束した人権状況の改善は進んでいない。五輪が平和で民主的な「開かれた中国」への転機になるのか、世界が見詰めている。
五輪には史上最多の204カ国・地域が参加した。8日の開会式は壮大な催しが続いた。中国の数千年の歴史を絵巻のように再現する華麗で幻想的な演出だったと評価したい。
「ついに我々は奥運(五輪)にたどり着いた」。中国の隔週誌「世界知識」最新号はこう題する特集記事で、五輪開催は清朝の時代からの悲願だったことを紹介した。
1908年、雑誌「天津青年」が五輪に関し中国はいつ(1)選手を派遣できるか(2)金メダルを取れるか(3)五輪を開催できるか――の三つの問いを提起した。100年後、共産党政権が第三の夢をかなえたのである。
改革・開放30周年の今年、中国は国内総生産(GDP)でドイツを抜いて米国、日本に次ぐ世界3位になる公算が大きい。8日は株価が急落したとはいえ「世界の工場」「世界の市場」として台頭してきた。だからこそ、福田康夫首相、ブッシュ米大統領、プーチン・ロシア首相、サルコジ仏大統領ら80人を超す首脳が開会式に出席したのだろう。
北京は史上最大規模の首脳外交の舞台にもなった。胡錦濤国家主席が世界中の元首や首脳を次々に出迎える光景は、中国に皇帝がいた時代の「朝貢外交」をも想起させる。
中国はアヘン戦争以来、西欧列強や日本の侵略を受けた屈辱の歴史がある。五輪を「中華民族の偉大な復興」を象徴する世紀の祭典にしたいとの思いも中国国内には強い。
前回アテネ大会で中国の金メダルは32個と米国の36個に迫った。24日までの今大会で中国が初の世界一になる可能性もある。だが、メダルの数で威信を示そうとするのは五輪精神とは相いれない。
「一つの世界、一つの夢」が北京五輪の合言葉である。中国が世界と調和していく新たな夢を実現するには3月のチベット騒乱で露呈した人権問題の改善、報道の自由や民主化の加速、環境保全などが大事だ。
その意味で、新疆ウイグル自治区で起きたテロ事件取材中の日本人記者らが武装警察から暴行を受けたのは極めて遺憾だ。
8日の北京は曇りがちで、開会式会場「鳥の巣」もかすんで見えた。平和の祭典の成功を祈るとともに、中国の透明性向上に期待したい。