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社説:景気後退期入り 財政出動の口実にするな

 政府が8月の月例経済報告で景気の後退局面入りを認めた。「景気回復」という言葉を4年8カ月ぶりに外し、「景気はこのところ弱含んでいる」に変えた。

 02年2月から始まった第二次世界大戦後最長の景気拡大に終止符が打たれたということだ。

 鉱工業生産は年明けには前期比減少に転じていた。輸出も昨年末から伸び悩み傾向にあった。完全失業率や有効求人倍率はいずれも昨年半ばから、悪化している。春先にはこの傾向がより明確になっていた。ということは、今回の政府の判断は遅いということだ。

 これまでの景気転換局面でも、転換点判断は遅れがちだった。景気が拡大している時には、政府や政権与党は野党などからの経済失政批判を嫌う。そこで、景気後退期入りをできる限り先送りしやすい。一方、景気が悪化している時には、対策としての財政支出を継続するため、回復宣言を遅らせがちだった。いずれも政治的配慮である。

 こうした政治的な景気判断は経済運営をゆがめてしまう。景気が下降局面に入っていても、早い段階であれば、軽微な対策で済む。ところが、遅れてしまえば、財政支出の規模が増大し、財政赤字を膨らますことにもなる。

 景気が回復しているにもかかわらず、政治的配慮などから判断を先送りすれば、その間、無駄な財政支出を続けることになる。国や地方の長期債務の中にもそうした経緯で積み上がった分がある。

 無駄を生まないためにも、景気転換点の判断は迅速でなければならない。同時にできる限り、客観的であるべきだ。

 政府部内の景気判断としては月例経済報告のほかにも、景気動向指数がある。今年4月分から基調判断を変える場合の基準を明確にしており、生産関係の指標を重視し、純粋に経済指標から判断する。6日に発表された6月分では「悪化」に下方修正された。

 これまでの景気の転換点判断でも生産動向が決め手になってきた。景気動向指数の判断は、政治への配慮を排除するという趣旨にも合致している。

 景気後退だから、すぐに補正予算編成などが必要とはならないのだ。

 近く発表される日本の今年4~6月期の実質成長率はマイナスに転落すると予測されている。ただ、7~9月期はプラス成長に回復する可能性が大だ。年度を通じれば実質1%台の成長が見込まれている。

 中期を見据えた、経済の基盤強化や新産業創出の施策、原油高騰などへの緊急対策は別にして、新たな財源による景気てこ入れを講ずる段階ではない。

 景気後退期入りを08年度補正予算や09年度当初予算に向け、歳出を拡大する財政出動の口実にしてはならない。

毎日新聞 2008年8月9日 東京朝刊

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