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社説

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ミャンマー―もうひとつの8月8日

 北京五輪の開幕に世界の注目が集まったきのう、「もう一つの8月8日を忘れないで」と、ミャンマー(ビルマ)の人たちが各地で声を上げた。東京でも、在日ミャンマー人らが大使館への抗議デモを繰り広げた。

 20年前のこの日、ミャンマーの当時の首都ラングーンは、ゼネストを呼びかける学生や市民ら約10万人で埋まった。これに軍が無差別に発砲し、全土で3千人が犠牲になったと言われる。

 この事態に、建国の父アウンサン将軍の娘、スー・チーさんは「デモに軍隊を差し向けるのを即刻中止せよ」と呼びかけた。これが、政治運動に身を投じる第一歩となった。

 軍はその後のクーデターで全権を掌握し、スー・チーさんは翌年から自宅に軟禁された。以来、数度の短期解放をはさみ、軟禁状態が続いている。

 88年は、ソウル五輪が開かれた年でもある。韓国やフィリピンで民主化が進み、成長するアジアに民主主義の波が押し寄せた時期だった。

 その流れに、軍事政権は背を向けてきた。90年に実施した総選挙では、スー・チーさんの率いた民主化勢力が圧勝した。民意ははっきりとノーを突きつけたのに軍政は民政移管を拒否し、今日に至っている。

 厳しい締めつけは今も変わらない。それでも、昨年9月、ガソリン値上げなどへの反発に端を発した市民デモは全土に広がった。軍政は銃口で弾圧し、多数の犠牲者が出た。ジャーナリストの長井健司さんもその1人だ。

 この時は僧侶が前面に立ったが、実は88年当時に学生指導者だった「88年世代」が影の立役者だったという。普段は表には出ないが、民主化を求める人々の思いもまた変わっていない。

 軍政は、今年5月のサイクロン被災で14万人以上が犠牲になったというのに、新憲法を承認する国民投票を強行した。新憲法のもとで総選挙を行い、民主化勢力が勝利した90年選挙の結果を白紙にするのが狙いだ。血塗られたイメージをぬぐい去って、「合法政権」と宣言したいのだろう。

 だが、こんなやり方を認めるわけにはいかない。そもそも話の順序が違う。まず、スー・チーさんらと対話を始めることだ。そして、彼女を含む2千人ともいわれる政治犯も釈放しなければならない。

 上から抑えつけるだけでは、いつまでたっても政権の正統性も安定も得られない。ミャンマーの20年の歳月が教えるのは、その単純な事実である。

 国連事務総長の特使による仲介は、粘り強く進めてほしい。東南アジアの隣国も、日本も注文をつけるべきだ。

 北京五輪に沸く中国は、ミャンマー軍事政権に最も大きな影響力を持つ。対話を実現させるため、責任ある大国として役割を果たしてもらいたい。

都市の豪雨―危険は思わぬところに

 豪雨で勢いを増した水に流される。そんな痛ましい事故が続いている。

 東京都大田区で先月初め、川底の整備工事をしていた人が流された。神戸市では、川遊びをしていた子どもたちが、上流の雨で一気に増水した流れにのみ込まれた。

 今週には東京都豊島区で、下水道の中で補修作業をしていた5人が流される事故が起きた。雨が強まってきたため外に出るよう地上から指示されたが、水かさが急激に増し、逃げ切れなかったようだ。

 下水道は雨水も取り込むところが多い。ただ1人、マンホールから脱出して助かった人によれば、「急に胸の高さまで水が来た」そうだ。

 雨脚が強まったのは、ぽつぽつ降り出してから約30分後で、同じころ東京23区に大雨洪水注意報が出された。警報に変わったのは事故後30分以上もたってからだ。雨は局地的で、急に強くなったことがわかる。まさにゲリラ豪雨である。

 川の下流だったり、下水道だったり、豪雨によって水かさが増すのは雨が降った場所とは限らない。しかも、その変化は驚くほど速いこともある。相次ぐ事故を重大な警告として受け止めなければならない。

 気がかりなのは、熱帯のスコールのような激しい雨が頻繁になっていることだ。1時間80ミリを超える猛烈な雨の発生回数は、20〜30年前に比べて2倍近くに増えている。

 東京の平均気温は100年で3度上がり、まさに「熱の島」だ。それが原因かもしれない。地球温暖化が進めば極端な気象が増えると予測されていることから、温暖化と関係があるのかもしれない。いずれにしても今や、降れば土砂降り、といった観すらある。

 それにどう備えるか。

 大雨の的確な情報を素早く流す。局地的な豪雨を予測するのは簡単ではないが、より精密で細やかな予測方法を開発していくしかない。

 都市での水の怖さを肝に銘じ、早め、早めに逃げることを心がけよう。水の影響は思わぬところにも現れる。たとえば地下室だ。浸水して、逃げ遅れた例もある。危険はどこにもあると考えるべきだ。

 都市の地表は、建物やアスファルト道路などに覆われるようになった。東京23区の場合、終戦直後には、降った雨の半分が地中にしみこんでいたのに、今は7〜8割がそのまま下水道や川に流れ込む。降った雨が集まれば、水量はたちまち増える。

 猛烈な雨はおそらく、今後も増えるに違いない。雨水を一時的にためる場所を増やしたり、水を浸透させる路面を増やしていくなどの地道な対策を講じ、川や下水道の負担を減らす工夫もしていきたい。

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