◎北陸新幹線延伸 福井優先も現実的な選択肢
整備新幹線の延伸論議で、自民党整備新幹線等鉄道調査会長の久間章生氏が未着工区間
に優先順位を付けて建設を進める可能性を示唆したが、延伸実現のカギを握る財源の確保に苦戦している現状を考慮すれば、そうした手法を取るのもやむを得まい。北陸について言えば、金沢―敦賀の同時着工にこだわるよりも、福井までレールを延ばすことを最優先課題に据えるのが現実的だろう。
未着工の金沢―敦賀、北海道新幹線新函館―札幌、九州新幹線長崎ルート諫早―長崎の
整備に必要な事業費は二兆円を超える。これらの区間の整備に充てる財源をめぐっては、JR各社がいずれ国に支払うことになる新幹線施設の貸付料の前払いを拒否。国土交通省が独自で貸付料を試算して、それを返済原資として金融機関から資金を借り入れることを検討しているものの、前払いより目減りする見込みであり、これだけでは十分とは言い難い。
加えて、政府の来年度予算編成では、医師不足対策などに充てる重要課題推進枠の財源
を捻出するために、公共事業費の削減幅が今年度より拡大される方向となっており、仮に整備新幹線建設費を積み増そうとしても大きな困難が伴うことが予想される。工事単価を押し上げる原材料高も、延伸には逆風である。財源が乏しい中で未着工区間の同時着工にこだわっても開業時期が遅れるだけであり、得策とは思えない。
金沢―福井は、北陸三県の都市間交流を支える交通基盤として高い整備効果が見込まれ
るうえに、二〇〇四年末の政府・与党申し合わせで、将来の延伸の「担保」として先行整備が決まった福井駅部が今年度中に完成する予定となっている。最優先を求める資格はあるはずだ。まずはこの区間の着工に向けて、沿線関係者の力を結集してほしい。
また、公共事業費の削減幅拡大や原材料高は長野―金沢など既着工区間にももろに影響
する。何があっても金沢までの開業時期が遅れたりしないように、必要な予算の確保を強く働き掛けることも忘れてはならない。
◎金沢城オペラ祭 史跡に野外劇場の熱気を
昨年に続いて一週間の日程で始まった「金沢城オペラ祭」は、金沢城址が六月に国史跡
になって初めての大型野外イベントとなる。
文化財としての価値が高まったからといって絵はがきのような静かな美しさを保つだけ
でなく、文化を育て、内外に発信する躍動的な舞台として貴重な歴史空間を使いこなしていきたい。その意味でオペラ祭は、歴史を生かしながら、新たな文化芸術を創造するという金沢の歩むべき都市像を象徴的に示すイベントと言ってよいだろう。
金沢城公園三の丸広場ではジャズや合唱、太鼓演奏などが繰り広げられ、さらにYOS
AKOIソーラン、北陸最大級のファッションショー、人気アーティストによる「The地球LIVE」などが続く。日が沈み、暗闇から光に照らされて浮かび上がる城郭建築物や石垣群は、出演者や観客を幻想的な世界に誘い、一体感を促す最高の舞台といえる。歴史空間もまた芸術の息吹によって観光地とは違った顔をみせ、生気を得て輝きを増す。金沢城という、この地域の歴史の中心舞台も、使いこなすことによって本来の求心力を取り戻すのではないか。
今年はフランス・ナント市発祥のラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭が春に
開催され、金沢が「音楽都市」「劇場都市」として魅力を高める新たな可能性が見えてきた。オープンした北國新聞赤羽ホールで開催中の「もと夫婦」連続十回公演も、演劇が東京一極集中と言われてきた中で挑戦的な催しとなる。今夏は県都で音楽、芸術イベントが目白押しで、九、十日には金沢市中心部で「金沢ゆめ街道」、十日は県西部緑地公園で大型ライブ「a―nation」も行われ、金沢全体がまさに「野外劇場」の熱気に包まれる。
金沢にとって多彩な城下町遺産は、芸術活動に共鳴する独自の「音響効果」といえる。
芸術と歴史空間が響き合い、余韻を広げる関係を象徴するのが金沢城オペラ祭である。歴史的な町並みに磨きをかけることで都市の音響効果が高まり、さらに上質の芸術を呼び込む好循環を持続させていきたい。