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更新:8月8日 12:00インターネット:最新ニュース

青少年ネット規制法成立で終わらないコンテンツ規制を巡る攻防

 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」、いわゆる「青少年ネット規制法」が成立し、世間ではネット規制を巡る議論は一巡したように思われているようだ。しかし実際の規制や政策はこれから各省庁で詰めることになっている。ネット規制を巡る新たな法規制の動きもあり、引き続き規制強化の流れは止まりそうにない。(楠 正憲・マイクロソフト技術統括室 CTO補佐)

■続々と提出されるネット規制法案

 先の通常国会では携帯フィルタリングに端を発した青少年ネット規制法が可決されて話題となったが、ほかにも改正出会い系サイト規制法が可決され、児童買春・児童ポルノ禁止法の改正案が提出された。児童ポルノ法改正案は継続審議となったほか、青少年ネット規制法の附則で定められた違法情報対策など、政官で議論が進むことが予想される。

 例えば総務省では、筆者も参加する「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」で今年末をめどに「安心ネットづくり促進プログラム(案)」を策定し、パブリックコメントにかける予定となっている。内閣府を中心に青少年ネット規制法の成立から1年以内に、基本計画を策定することも決まっている。

 青少年ネット規制法では、青少年による有害情報へのアクセスを防ごうと、フィルタリングなどの普及を促している。有害情報とは、青少年に対しては有害だが、閲覧や発信そのものが違法とは限らない情報を指す。そのため、情報そのものの削除や全面的な閲覧制限には踏み込まず、未成年に限ったフィルタリングの可否や範囲を保護者による選択に委ねている。

 これに対して違法情報は、青少年に限らず情報発信が法律で禁止される。例えば製造や頒布に加え所持そのものを違法化する方向で与野党が法改正を検討している児童ポルノや、拳銃売買、麻薬取引、売買春などが挙げられる。これらに対するネット上の情報は、インターネット・ホットラインセンターなどを通じて警察への通報やサーバー管理者に対する削除要請が行われているが、要請を無視して情報発信を続ける悪質な事業者や、日本の法律が及ばない国外のサーバーからの情報発信もあり対応が追いついていない。

携帯サイトの健全性を審査する第三者機関のモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の設立総会=4月30日

 こうした違法情報について、ネットでの発信を直接的に規制したり、プロバイダーなどの協力で大人も含めて解除できない方法でアクセスそのものを技術的に抑止したりすべきではないかという声が高まっている。例えば今年5月には、与党の児童ポルノ法改正PTが児童ポルノを掲載するサイトに対して、大人も含めて閲覧そのものを不可能とする「ブロッキング」を検討していることが報じられた。衆議院に与党が上程した児童ポルノ法改正案にブロッキングを盛り込むことは見送られたものの、青少年ネット規制法の附則を受けて早々に議論が再燃する公算が大きい。

■問題の多い「ブロッキング」の手法

 違法情報への対策が、青少年有害情報と比べて難しい理由がいくつかある。まず、青少年有害情報の場合は保護者の責任で子どもの使うPCにフィルタリングをかけることとなるが、大人も含めて強制的に閲覧できないようにするには、フィルタリングなど端末側での措置だけでは不十分だからだ。通信事業者が情報の発信そのものを制限することになれば、表現の自由や通信の秘密に抵触する可能性がある。

 また、子どもに対するフィルタリングであれば大人によるリストの監視などができるが、大人も含めた違法サイトのリストが適正に運用されているか、誰が監視するのかなどが問題となるだろう。仮に行政当局が踏み込みすぎて、法律で禁止されていない情報までブロックするようなことがあっても、それを外部から検証し、議論することが難しくなってしまう。実質的な検閲や思想統制に悪用される懸念が払拭できないのである。

 ブロッキングは中国やパキスタン、中近東、シンガポールといった新興国で言論統制の手段として利用されているほか、先進国でも児童ポルノ対策として北欧を中心に既に運用されている。今年2月にYouTubeが数時間にわたってダウンしたが、これはパキスタンの通信事業者が政府の命令に従ってYouTubeの一部動画に対してアクセス制限を行った際、パキスタン国内のYouTubeに対するアクセスを検閲サーバーに誘導する経路情報を世界に発信し、これを香港の通信大手のPCCWが世界中に広報してしまったことにあるといわれている。他国のネット検閲における運用ミスが世界中のネットを揺るがした例といえる。

 いまのところブロッキングの具体的な手法としては、問題あるコンテンツを収容しているサーバーのIPアドレスを、ドメイン名を管理する「DNSサーバー」から取得できないよう細工する方法や、サーバーへの接続について、すべていったん政府の運用する検閲サーバーを通過するように経路情報に細工する方法が使われている。しかし、DNSを使った場合は同じサーバー上の問題ないコンテンツまで閲覧できなくなるほか、IPアドレスを直打ちすればサイトを閲覧できてしまうといった問題がある。

 経路情報を書き換える場合は、ページ単位でのアクセス制御が可能となる一方、通信の秘密に抵触すると考えられるほか、検閲サーバーの運用コストが大きく、先に触れたパキスタンでの事例のように運用ミスで世界中のネット運用を混乱させてしまうリスクも少なからずある。特にプロバイダーの乱立する日本では、運用の困難が予想される。そもそもインターネットの設計思想が検閲などを想定しておらず、どのような方法を採るとしても、どこかにしわ寄せがいくことは避けられないのではないか。

■他国の規制も他人ごとではない

 昨年末フィンランドで児童ポルノサイトへのブロッキングが実施されたが、翌1月にMatti Nikki氏の運営するLapsiporno.info(フィンランド語で児童ポルノの意)というサイトがブロッキングの内容を解読する「リバースエンジニアリング」を行い、ブロックされたサイトのDNS名とIPアドレスの一部のリストを公開した。ところが後にこのサーバーもブロッキングされたため、それ自体が児童ポルノを含まない検閲批判サイトまでブロックすることは法を逸脱しているのではないかと問題になった。

 フィンランド国内の団体が2月19日にこのリストに含まれる1047のサイトを精査したところ、9つのサイトが児童ポルノを掲載していたほか、9つのサイトが年齢不詳のポルノを掲載していた。28のサイトは違法か合法か判断が難しく、46のサイトは創作性の認められる児童をモデルとした作品、残り879サイトは合法コンテンツのみだったという。この結果から、ブロッキングが行われる場合には法に基づいて適切に運用されているかどうか十分な監視が不可欠といえるのではないか。

 このリストに日本の大手プロバイダーの管理するサーバーも含まれていたので、筆者から当該プロバイダーにフィンランド警察から照会があったか問い合わせたところ、フィンランド国内からの接続が遮断されていることは認識しているが、先方から特に連絡はなく、どのコンテンツに問題があるかまでは把握していないという。最近は中国からヤフー・ジャパンが一時閲覧できなくなったということが起きた。日本国内でブロッキングが行われていないといっても、外国でのネット検閲が日本のサーバーにも及んでおり、国内事業者にとって他人ごとではなくなりつつあるのである。

■各国のネット規制の実情をよく見て議論すべき

 このように先進国を含め、児童ポルノを皮切りにネット検閲の動きが進んでおり、我が国でも議論が始まった段階にある。青少年ネット規制法の附則に伴う検討や、児童ポルノ法改正へ向けて、これから具体的な動きが出てくることが予想される。情報の流通そのものが違法である以上、何らかの法執行は必要だとしても、表現の自由や通信の秘密に対して十分に配慮し、合法的な表現まで阻害しないよう、慎重な検討が求められる。また、違法情報の裏に違法行為や犯罪者がいることを考えると、違法情報の削除手続きが犯罪捜査の妨げとならないための配慮も必要となろう。

 北欧やイギリス、ドイツなどでブロッキングが行われていることを取り上げて、我が国での取り組みが遅れているとの指摘をしばしば耳にするが、通信業界の市場構造は国ごとに異なり、フィンランドの例に見られるように、様々な課題が浮かび上がっているのが実情だ。我が国で違法情報に対する法執行のあり方を検討するに当たっても、諸外国での具体的な運用実態を参考にしつつ、国情を踏まえて慎重に議論を進めることが期待される。

-筆者紹介-

楠 正憲(くすのき まさのり)

マイクロソフト 技術統括室 CTO補佐

略歴

 1977年、熊本県生まれ。ECサイト構築や携帯ネットベンチャー等を経て、2002年マイクロソフト入社。Windows Server製品部Product Manager、政策企画本部技術戦略部長などを経て2006年より現職。

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