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情報通信の未来:安全なネット環境

岡村信悟・総務省総合通信基盤局消費者行政課課長補佐
岡村信悟・総務省総合通信基盤局消費者行政課課長補佐

 18歳未満の青少年を有害なインターネット上の情報から守る有害サイト規制法が6月に議員立法で成立した。出会い系サイトなどがきっかけで少女らが事件に巻き込まれることが多い現状を踏まえ、携帯電話事業者に対して子供が閲覧できないようにするフィルタリング(閲覧制限)サービスをすることなどを義務づけている。コミュニティサイトやSNSなども親権者の意思確認が必要だ。フィルタリングを中心に青少年の安全なネット環境をつくることは可能なのか、法規制で日本のコンテンツ産業は萎縮しないのかを総務省総合通信基盤局消費者行政課の岡村信悟・課長補佐に聞いた。(聞き手、毎日新聞・清宮克良)

 ◇フィルタリングとは?

 (Q)高校生が「モバケータウン」や「魔法のiランド」を見るのにも親の許可が必要というのは縛りすぎという見方はないのでしょうか?そもそもフィルタリングとはどういうものですか?

(A)フィルタリングとは、インターネット上の様々な情報の中から、例えば、成人向けのアダルトサイトなど、受信者の側で閲覧したくないと思う情報の種類を選択し、閲覧できないようにする仕組みのことを言います。インターネットが急速に普及する中、青少年保護のために有効な手段として注目されています。

 パソコンの場合は、利用者がフィルタリングソフトを自分で設定して利用することになりますが、携帯電話の場合は、端末機能に限界があるため、利用者ごとにフィルタリングを設定することができません。携帯電話事業者が受信者に代わって閲覧できない情報を選択し、無料提供しているフィルタリングサービスを利用することになります。

 これらのサービスは、高校生がよく見ているコミュニティサイトやSNSに一律にフィルタリングをかけるなど、受信者側の選択の自由を過度に制限しているという問題点が指摘されています。

 新法によって携帯電話事業者はフィルタリングサービスの提供を義務付けられ、18歳未満の青少年は、保護者の同意がない場合を除いて、フィルタリングを利用しなければなりませんが、法律の施行までの間に、現状の携帯電話フィルタリングが抱えている問題をある程度解決することが求められます。

 現在、総務大臣の要請を受け、携帯電話各社は、利用者の選択肢を増やすための新たなサービスの提供を準備しています。また、携帯電話インターネットにおける青少年保護を推進する第三者機関として、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構が設立され、青少年保護に配慮したサイトの認定を開始しました。認定されたサイトは携帯電話フィルタリングにはかからないことになっています。

 ◇出会い系サイトの問題

 (Q)出会い系サイトなどがきっかけで少女らが事件に巻き込まれるケースが目立ちます。どう受け止めていますか?

(A)大変深刻な問題だと受け止めています。インターネットが普及することによって、誰もが情報の発信者となることができるようになりました。「いつでも、どこでも、だれでも」がネットにつながるユビキタスネット社会が実現すれば、私たちの未来はより可能性に満ちたものになるはずです。しかし、このままインターネットの影の部分が拡大すれば、せっかくの可能性の芽も摘み取られてしまいます。

 青少年保護をはじめとするインターネットの利用環境整備は、総務省はもとより政府全体においても最も重要な課題として位置づけられています。

 (Q)テレビ局は行政から完全独立したBPO(放送倫理・番組向上機構)に「放送と青少年に関する委員会」を設け、自主的な規制や対応をしています。今回の措置で有害情報の選別はどこがするのですか?国の関与はあるのでしょうか?

(A)青少年にとっての有害情報の判断に国が関与することはありません。新法には有害情報の定義はなく、例示にとどまっています。青少年にとっての有害情報の選別をする役割を果たすのは、映画やビデオ等と同じように、行政からは独立した第三者機関であるべきです。

 今年に入ってから、先ほど挙げたモバイルコンテンツ審査・運用監視機構に加え、インターネット・コンテンツ審査監視機構がコンテンツの審査等を行う第三者機関として活動を開始しました。インターネット上のコンテンツについても自主規制の取組がようやく動き出したところであり、今後順調に発展していくことを期待しています。

(Q)表現の自由とのかねあいはどうなるのでしょうか?

(A)新法では携帯電話事業者等にフィルタリングサービスの提供を義務付けていますが、保護者の同意があれば18歳未満の青少年であってもフィルタリングを解除できます。あくまで青少年保護という目的に沿った取り組みであるので、これまでのところ表現の自由に抵触することはないと考えています。しかし、この点に関しては、今後、インターネットの利用環境の整備を進める上で最も注意を払わなければなりません。

 ◇コンテンツ産業への影響は?

(Q)中村伊知哉・慶応大教授が新法を審議する参院内閣委で「携帯は百害あって一利なしではなく、百利あって一害あり。一害のために百利をつぶしてはならない」と意見陳述しました。日本で数少ない成長分野であるコンテンツ産業が法規制で萎縮することはないのでしょうか?また、世界に向けて日本のコンテンツ産業がマイナスになるメッセージを発することにならないのでしょうか?

(A)インターネット上のコンテンツは急速に発展したために、青少年保護の観点から問題となる事象が出てきているのは事実です。第三者機関の設立に見られるように、今後は、自ら「利用者保護」と「ビジネスの発展」を両立させる環境整備を図っていかなければならないことは、業界関係者も十分に理解しているところだと思います。

 幸い、新法は、コンテンツ産業の萎縮をもたらすほど規制色は強くなく、当面コンテンツ業界をはじめとする民間の自主的取組の推移を見守ろうというスタンスです。

 特に、「ケータイ文化」と呼ばれるなど、世界にも類を見ない発展を遂げている我が国の携帯電話インターネットにおいて、今後青少年保護の取組が成功すれば、諸外国を先導するモデルとなり、むしろ日本のコンテンツ産業の評価を高めることにもつながるのではないでしょうか。

(Q)通信と放送の融合をにらみ総務省が2010年に提出予定の情報通信法案(仮称)にもネットコンテンツのあり方が示されると言われています。法規制については国民的な広範な議論が必要だとの意見も聞かれます。今後、青少年の安全なネット環境をつくるためにどんなことが重要ですか?

(A)個人的には、インターネットの利用環境の整備は、民間主導で進めることが最良の方策であり、法規制の導入には慎重であるべきと考えます。なぜなら、仮に法規制を導入しても、民間における取組が規制の実効性を担保するだけの実質を伴っていなければ、抜け道だらけになるか、法目的を超えた過度な規制になる恐れがあるからです。

 総務省においては、現在、民間の有識者の意見を伺いながら、インターネット上の違法・有害情報対策の包括的な政策パッケージとして、「安心ネットづくり」促進プログラムの策定を進めています。プログラムを構成する諸施策を貫く柱は、民間の自主的取組の促進とインターネットリテラシーの強化です。ネット環境の整備に当たっては、これらの点が最も重要であると考えています。

 ◇岡村 信悟(おかむら しんご)

 総務省総合通信基盤局消費者行政課課長補佐         1995年東京大学人文科学研究科修士課程修了(東洋史学専攻)、同年郵政省入省。総務省情報通信政策局地域通信振興課課長補佐、内閣官房内閣広報室内閣参事官補佐(世耕弘成内閣総理大臣補佐官付)等を経て現職。東京都出身。

2008年8月8日

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