ギョーザ中毒事件で中国に被害者が出ている事実を日中両政府が一カ月も伏せていた。消費者の安全より政府の都合を優先した対応だ。中国産食品の信用を回復するには事件の早急な解決しかない。
中国製ギョーザの中毒事件について、中国外務省は六日、製造元の「天洋食品」(河北省)が回収したギョーザが国内で流通し、混入された殺虫剤「メタミドホス」による被害が出ていたことを公式に認めた。
中国公安省は二月末、中国国内で殺虫剤が混入した可能性は「極めて低い」と発表しており、従来の見解を事実上、覆した。
日本政府は、この情報を七月上旬の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の直前、中国政府からもたらされたが、中国側の要請で公表しなかった。
ギョーザ事件をめぐっては中国のインターネットなどで事件は中国のイメージを傷つける「日本側の陰謀」といった意見が広がった。公安当局が捜査終了を待たずに国内で混入された可能性を事実上、否定する見解を公表したのは「世論」に迎合した側面が強い。
サミット出席のため胡錦濤主席が来日したのは今年二度目。七月七日の盧溝橋事件七十一年に重なったため国内では「日本に譲歩しすぎだ」という反発もあった。
中国で殺虫剤が混入された可能性を認めれば反発が一層強まり、北京五輪を前に中国の威信が傷つきかねないという懸念から、中国が情報を伏せるよう要請し日本も受け入れたのではないか。
しかし、冷凍ギョーザが再び中国の市場に出回り、在留邦人を含む新たな被害者が出かねないことを考えれば、両国政府の対応は消費者の安全より指導者の都合を優先したと言わざるを得ない。
「国民の目線」を強調する福田康夫首相と「人間本位」を政策目標に掲げる胡主席の政治姿勢にももとる。両国首脳のリーダーシップが事件捜査の進展を実現したとしても、食品安全の情報を隠ぺいすることまで正当化できない。
福田首相は八日に北京五輪開会式出席のため、訪中し胡主席、温家宝首相と会談する。ぜひ中国側にギョーザ捜査の進展状況をただし、共に事件解決への決意を示してもらいたい。
物価が高騰する中、安い中国食品を安心して買える日を消費者は待ち望んでいる。中国が国内の問題を認め、真相を明らかにすれば、中国産の食品ばかりか国のイメージも高めるだろう。
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