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【社説】

景気後退 まず金融政策を視野に

2008年8月8日

 政府は八月の月例経済報告で、景気が後退局面に入った可能性があることを認めた。福田康夫内閣は景気対策の策定を検討しているが、金融政策が鍵を握る。政府・日銀の緊密な連携が不可欠だ。

 月例報告は「景気は、このところ弱含んでいる」との基調判断を示し、先行きについても「当面、弱い動きが続く」とし、いずれも先月の判断から下方修正した。

 景気は二〇〇二年二月から戦後最長の拡大を続けてきた。景気循環の正式判定は有識者がつくる研究会の意見に基づいて、約一年後に決まるが、民間では「昨秋から潮目が変わった」との見方が有力だった。

 月例報告は住宅建設や輸出、生産、雇用情勢などの判断をいずれも先月に比べて下方修正した。先に政府が発表した六月の景気動向指数も鉱工業生産指数や中小企業売上高(製造業)、有効求人倍率など七指標の落ち込みを背景に悪化しており、事実上、景気は後退局面に入ったといえる。

 福田内閣は近い将来の総選挙も念頭に置いて、景気対策の策定を急いでいる。伝えられる政策項目をみると、政府系金融機関を活用した中小企業に対する信用保証拡大や高速道路の料金引き下げ、漁業対策など、いずれも「財政ばらまき」色が濃い。

 麻生太郎自民党幹事長は本社などのインタビューで、小泉純一郎内閣から堅持してきた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の一一年度黒字化目標の先送りや三十兆円の新規国債発行枠見直しにまで言及している。

 中小企業に対する信用保証は一九九〇年代後半から積極的に使われたが、貸し倒れになった融資の穴埋めには結局、巨額の税金が使われた。ばらまき財政は麻薬のような一時の痛み止めにすぎず、肝心の病気を治す効果がないことは歴史が証明済みである。

 福田内閣が財政再建目標を取り払ったうえで、歳出拡大策に走るなら「かつてきた道」への逆戻りだ。改革を後退させてはならない。財政規律が緩めば、金融市場で失望売りが加速する。

 財政出動を決めたところで、実際に資金が動くのは、予算が成立する来年春以降になる。金融政策の素早さとは比較にならない。政府は安易な財政出動を考える前に、まずは金融緩和を視野に入れて、日銀と現状認識をしっかり共有していくべき局面である。

 白川方明日銀総裁にとっても、ここは最初の正念場だ。

 

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